第16話
はっ!!
はぁ……っ、はぁ……っ
ひ、
ひさびさに見たけど、
なんだよ、これ……っ。
こ、小林早紀が、
じ、自殺だとっ??
……学校じゃ、なかった。
あんな施設、見たことねぇぞ。
祟りで皆殺しになりそうな草深い洋館なんて。
公園か、どっか?
それにしちゃ、広かったな。
そもそも公園に、あんな洋館あるか?
どこだ?
見当がつかねぇな……。
いままで、こういうシチュエーションはなかった。
郁美の父親ん時は、自宅は想像ついたし、
最近のやつは、だいたい、学校だった。
小林の場合だけ、違うのはなぜだ?
……考えてもしょうがねぇか。
*
「……さ、早紀ちゃん、が?」
……ほんと、オトコウケするスタイルなんだよな。
制服の上に、シルエットを強調しないエプロン姿なのに、
わがままボディ感が半端なく伝わってしまう。
「……あぁ。」
「なん……で?」
「だから、分からんっての。」
分かってたらお前を呼ばないんだよ。
いいから、そのおたま、置け?
「う、うん……。」
「すまんな、打ち上げに行く予定だったのに。」
「……ううん。
そんなの、いいのに……。
……よしっ!」
急に握りこぶしして、ぐっと引いたな。
こんな時だってのに、その仕草に、
ちょっと、ほっこりさせられる。
「わたし、調べ廻る。
すぐに葉菜ちゃんと留美ちゃんに連絡する。
あと、グループの子たちにも、個別に連絡して、
先生とかにも聞いて回ってみる。」
「雨守、やる気があるのはいいが、
ひとりでやろうと」
「郁美。」
……は?
「あのね、ずっと、思ってた。
こんなときに、こんなこと言いたくないけど、
わたし、真人君に、父親の名字で呼ばれたくない。」
……あぁ……。
「郁美は、お母さんがつけてくれた大事な名前。
わたし、こっちで呼ばれたいって、
ずっとずっと思ってたんだよ。」
……。
「だから、真人君、って呼んでたんだけど、
ちっとも気づいて貰えないから。」
……それは、だな……。
「早紀ちゃんを助けられたら、
わたしを、下の名前で呼んで。
ね?」
「……。」
「わたし、返事……、
ずっと、待ってるん、だよ……。」
ぐっ……
跳ねるような甘い声で、目、潤ませてきやがった。
「これくらい、
いいよ、ね……?」
い、いつのまに上目遣いまで覚えやがったなっ。
……つ、強くなりやがってぇ……。
「……小林の件、片付いたら、検討する。」
「ダメだよ。」
「善処する。」
「もーぅっ!
前向きに善処しないで、
わたしを、下の名前で呼んで。」
「……。
わかった。」
……けどな、郁美。
「やったっ!」
お前、それ、自滅行為だぞ?
*
「は?」
く、くるま?
見たことねぇやつだけど……。
「そーだよー。
乗って乗ってー。」
ど、どこ行く気なんだよ。
「郁ちゃんもだよー。」
「う、うんっ……。」
ばたんっ
「うわ。」
乗り心地、いいじゃねぇか……。
「公用車のおさがりだからねー。
ちょっと前に、国際会議があってさー。
要人対応ができるやつ。燃費ちょっと高めだけど。」
はー。
沢名家ってな、どういうカネがあるのかね……。
東條家よかちっちぇことしか分かんねぇけど。
カネがうなってるとこの基準だと、わかりゃしねぇなぁ。
「……
おはよう、まーくん。」
あぁ。
沢名か。
「おう。」
流石に少し、落ち込んでんな。
暴力的なまでの可憐さも、影の分だけ割り引かれてる。
まぁ、無理もないわな。
「郁ちゃんさー、
一応、星羅ちゃんに連絡してあるけど、
遅刻でも、学校いってねー? 奨学金貰ってるんだから。」
「うっ……。」
「はいはい、そんな顔しないしない。
かっわいい顔がだいなしーっ。
んで、郁ちゃんにも聞いといて欲しいんだけど、
早紀ちゃんの話ね?」
「う、うん。」
「小林家ってのは、地元ではまぁ、ちょっとした家なんだよね。
ま、もとの大庄屋って感じ。」
ほほー。
「で、沢名家と、かつては敵対してた家。」
「!」
「ものすげー前、江戸時代とかの遺恨があんの。
郷土史とかに出てくるようなやつね。
説明はしょるけど。興味ないでしょ?」
「ないな。」
なんとなく想像がつく。
「!」
「あはは、たっすかるーぅ。
で、今は、時代も違うし、業種も違うから、昔ほどじゃない。
遺恨って言うほどでもないんだけど、懸隔を感じるって人は、結構いる。
ま、これはこの町に住んでる人達みんなに言えるけど。
もちろん、直接、対立とかはしてない。
そういう露骨なもんじゃなくて、地下水脈みたく流れてる感じ。
小学校とかで徒競走とかあると、まとめ役の人が扱いに困るやつ。
郁ちゃんも記憶にない?」
「……あ。」
あるのか、なんか。
まぁ、田舎あるあるってとこか。
ここらあたりは、うわべは開発が入ってほどほどに小綺麗な町ではあるけど、
地元民の人間関係はウェットそのものだからな。
「で、東郷建設、っていうか、
はっきり言っちゃうと、清明君のおかーさんとしてはさ、
沢名家に面子、まるっきり潰されたわけだよ。
それなら、沢名と逆系統の小林家に当て込んじゃえ、って感じ。」
……そこへ繋がっちまうのかよ。
正直、あんま考えてなかったな。
「家格としては、今回、清明君はやらかしたから、
沢名と同格じゃなくて、一歩下くらいの小林家って、
ま、向こうからだけ見れば、ちょうどいいんだよね。」
「……なるほどな。」
そこまで説明してるなら、裏も取れてるってことか。
ってことは、
「それが理由なのか?」
「んー、やっぱりそこを突くかー。
あたしも、決定打とは思ってないんだ。
正直言うとさ、そう収まっちゃうなら、早紀ちゃんとかは、
納得はできないけど、承諾はする、って感じだと思うんだよ。」
なんか、わかる。
小林は、損を自分に引き受けていくタイプだから。
「んで、これ、どこへ向かってんだ?」
「んーとね?
まず、早紀ちゃんは、いま、高校にいない。
これは〇INEで確認済。」
ぬかりねぇなぁ。
「それでさ。
郁ちゃんから聞いた、
真人が言ってた洋館にいっちゃん近いのは、城址公園の旧藩主別邸。」
城址公園、か。
存在は知ってたが、行ったことはねぇなぁ。
「ただ、あそこって、
前に飛び降り自殺が頻発したんで、閉鎖してんだよね。」
ふーむ。
「で、あとに残ってんのが縄文遺跡の展示館と、
もう一つあって、近代美術館。」
「んなもんあったのか。」
「ないよ。」
は?
「炭鉱でひと山あてた人が、山奥に無駄に凝って建てちゃった洋館を
バブルの頃に調子に乗って美術館モドキに改装しちゃったやつ。
バブル弾けてあっという間に廃墟になったんだけど、
地元の有志の爺様達が、運動がてらに草刈りだけしてんの。」
はー。
んなもん、地元民じゃねぇ俺がわかるわけねぇだろ。
「あははは。
で、建物は最小限、入れる程度には機能してる。
地元でも、知ってる人はそんな多くない。
あたしがなんで知ってるかって、ロケでいったから。」
ロケ?
「あー。これ言ってなかったっけ。
あたし、演劇部の映画、主演すんの。
どーしてもって頼まれちゃって。」
ほー。はじめて聞いた。
あ、沢名は知ってるって顔してるな。
「す、すごいね、留美ちゃん。」
「あははは、どうもどうもー。
で、早紀ちゃんも端役だけど、出てくれるらしいんで、
この場所、知ってるんだよね。」
なるほどなぁ。
「んで、ロケはもう終わってる。
だから、誰にも迷惑を掛けないし、発見は遅れる。
これ、誰かさんに発想、似てないー?」
……痛いとこ突きやがる。
「あははは。
だから、あたしはここが一番、可能性高いと思ってる。」
……なるほど。
「……はっきりいって、賭けだけど。」
だな。
「ま、外れたらもうしょうがねぇよ。
俺らはここのこと、よく知らんからな。
郁美もそうだろ?」
「!」
「!?」
え……
っ!?
……つ、つい、出ちまったっ。
貸しにできるポイントがっ。
「……ねー、
いーちゃん達、ホントはどこまで進んでるの?」
頼むからハイライトつけて喋ってくれ、沢名。
そのモードのお前、マジ怖いから。
「……あー、郁ちゃん、
顔、真っ赤ー。」
や、やらかしたっ……
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