金色礼賛
暁野スミレ
前置き――ラジオ体操カードの空白について――
「ボク」は今年の夏、ラジオ体操の皆勤を逃した。
先に言っておくと、「ボク」は高校生だ。
ラジオ体操の皆勤を熱心に狙うにはちょっと大人すぎると、自分でもそう思う。
はっきり言おう。「ボク」が狙っているのは皆勤賞の栄誉ではなく、その副産物――『図書カード3000円』だ。
「ボク」は多趣味で、そのため常に金欠だった。
新作ゲームが欲しい、限定モデルのシューズが欲しい、ソシャゲのレアキャラが欲しい。
とりわけ今は、発売されたばかりのミステリー小説が読みたくて仕方なかった。
文庫本が出るにはまだ日が浅く、図書館の予約戦争にはストレート負け。
そんなわけで、「ボク」はラジオ体操にせっせと参加して、図書カードを財布の足しにしようと目論んでいたのだった。
……という前提を踏まえてもう一度言うけど、「ボク」は今年の夏、ラジオ体操の皆勤を逃した。
ついでに言うと、休んだのは盆休み手前の平日5日間。ラジオ体操カードにぽっかりと空いた空白は、流石に言い訳も誤魔化しも効きようがなかった。
町内会のおばさんには不思議がられた。
三日坊主じゃあるまいし、どうして後半のこのタイミングで参加しなくなったのか、と。
親にも呆れられた。せこせこ参加してたと思ったら妙な時期にサボり出したよね、と。
深い事情があるかと聞かれたらそういう訳でもなかったので、それに対して特に何も語ることはなかった。
その代わりに、「ボク」は思いを馳せていた。ラジオ体操に参加しなかった5日間に。
語る程でもない、けれど少しだけ特別な5日間に。
朝日で金色に染まっていたあの時間を、「ボク」はもう一度思い起こすことにしたのだった。
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