第9話 お兄ちゃん、独り言やで

「あ、もうこんな時間。気持ちよくてウトウトしてもうたわ」


「ふふっ。お兄ちゃんも寝とる。寝顔かわええなあ」


「ほっぺ、つんつん。マシュマロみたいや」


「……お兄ちゃん、起きてへんよね?」


「……ウチな、今日ほんまはお兄ちゃんの誕生日をお祝いするために来たわけやないねん」


「もちろん、お兄ちゃんの誕生日を祝いたいゆう気持ちはあるで。やけど、それが一番やない」


「ここに来たほんまの理由はな……、お兄ちゃんに会いたかったからや」


「お兄ちゃんが高校生なって大阪の実家出て、東京のアパートに引っ越してからの、この半年……、めっちゃ寂しかってん。お兄ちゃんとソファに並んで座ってテレビ観たり、お兄ちゃんの部屋でパパとママに内緒で夜通し一緒にゲームしたり――。夜ベッドに入ると、そんなお兄ちゃんとの思い出ばっか頭に浮かぶんや」


「ウチが東京の高校行きたい言うたんも、お兄ちゃんみたいに何か目標があるわけやない。ただお兄ちゃんのそばにいたいおもたからやねん……」


「お兄ちゃんが東京の高校行くうたとき、ほんまはウチ、反対やった。お兄ちゃんと離れたくなかったからや。『東京の学校なんか行かんとって。ウチと一緒にいて』――その言葉が喉まで出かかった。……やけど、結局言えんかった。お兄ちゃんを困らせるだけや思たから」


「お兄ちゃんは優しいから、ウチが『大阪に残って』言うてたら、きっと真剣に考えてくれたやろ? もしかしたら東京行きをやめてくれたかもしれんな」


「やけど、ウチはお兄ちゃんの足を引っ張る存在にだけはなりとうなかった。……ほんと言うと、お兄ちゃんの優しさに甘えるのが恐かったんや。いつか愛想尽かされるんやないか思て」


「ウチはお兄ちゃんのそばにおれればそれでええ。それだけでええ。やから、ウチをもう少しだけそばにおいといてな。いつかお兄ちゃんの隣に別の人が立つその日まででええから……」


「……お兄ちゃんの髪、切ったばっかでチクチクするわ」


「なんでウチはお兄ちゃんの妹なんやろな……。もっと別の関係はなかったんやろかな……」


「……あかんあかん。久々にお兄ちゃんに会えて、気ぃ緩んでもうたわ……。お兄ちゃんが東京に旅立った日、もう泣くのは最後にしよう決めたのにな……」


「……そろそろ起こしたほうがええよな。膝枕じゃ、お兄ちゃんもぐっすり眠れへんやろし。お兄ちゃんが目ぇ覚ましたら、いつも通りのウチ――お兄ちゃんの妹や」

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