お兄ちゃんの誕生日~大阪の妹と過ごす夜~

まにゅあ

第1話 おかえり、お兄ちゃん!

「おかえり、お兄ちゃん!」


「えへへ。びっくりした? 今日はお兄ちゃんの誕生日やからね、サプライズでお祝いパーティーしようおもて。合鍵で部屋入らせてもろたで」


「大阪から東京までバスで八時間もかかるんやね。朝一に出発して正解やった」


「学校? 休んだで。パパとママにはお兄ちゃんに行っとることは内緒や。『夜は友達の家に泊まる』って言っといたから、今夜はずっとお兄ちゃんと一緒」


「東京での暮らしはどう? 楽しい?」


「……お兄ちゃん、もしかして怒っとる? ウチが親に嘘ついて内緒で来たから。……やけどウチ、どうしてもお兄ちゃんの誕生日お祝いしたかってん。お兄ちゃんが高校生なって初めての誕生日やし」


「えへへ。喜んでくれたみたいで嬉しいわ」


「パパとママに連絡? 嘘はよくない? ……せやな。お兄ちゃんが連絡せえ言うんやったらそうする」


「――ママに電話したら、明日は土曜で学校お休みやから、お兄ちゃんがよければ日曜までこっちでゆっくりしててかまへんって。お兄ちゃん、日曜までここいてええ?」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「せや、お兄ちゃん。ウチ今、晩ご飯作ってる途中やってん」


「料理の腕は心配せんでええよ。今日のためにウチ、ママから色々と教わってきてん。ダメダメの素人料理人やった以前のウチとは一味違うで」


「メニューはお兄ちゃんの大好きなハンバーグや。ほら、こっちこっち――」


「ちょうどお肉をこねてるところやから、晩ご飯できるまでもうちょっとかかりそうや。お兄ちゃんはのんびりテレビでも観といて」


「え、手伝ってくれんの? めっちゃ嬉し――いや、あかんあかん。今日はお兄ちゃんの誕生日や。主役にはゆっくりしといてもらわんと」


「『気にするな』? お兄ちゃんはほんま優しいな……。せやったら、お肉をこねるのお願いしよかな。お兄ちゃん、手ぇ大きいし、力持ちやから、あっという間にできそうやね」


「あ、ちゃうちゃう。同じとこばかりやなくて、もっと全体をこねるねん。こんな感じで。うんしょ、うんしょ――あっ」


「……お兄ちゃんは平気なん? 手、当たったけど」


「……そうなんや。ドキドキしとるんはウチだけか……」


「べ、別に何でもあらへん! ほらお兄ちゃん、よそ見せんと、しっかりこねてや!」


「――ええ感じちゃうかな。ありがと。あとはウチに任せて。こうやって丸くハンバーグの形にして、真ん中をちょっぴり凹ませて――フライパンでジュー、ジューするねん」


「う~ん! いい香り! 焼き加減もばっちりや! お兄ちゃん、お皿もらってええ? ――ありがと。盛り付けも任せといて」


「あっ! ハンバーグ、ちょっと崩れてもうた。これはウチが食べる。もう一つあるから大丈夫やで、お兄ちゃん」


「おいしょっと!」


「……もう一つも盛り付け失敗や。ごめんな、なんべんも練習したんやけど、まだまだ練習不足やったみたい」


「ウチ、ほんまにダメやな。この前もな、中学の調理実習の時間に、班のみんなと卵焼き作ってんけど、ウチが台無しにしてもうてん……」


「いや、みんな優しかったで。気にすんな言うてくれた。先生にも怒られんかった。やけど、ウチはそれが余計につらかってん。みんな、ウチが料理音痴のダメ人間やから、何も期待してへんのかなって」


「『そんなことない』? えへへ。お兄ちゃんはやっぱりウチの救世主やな。ちょっと胸借りてええかな?」


「お兄ちゃんの心臓、とっくんとっくん鳴っとる。懐かしいなあ、この音。すごく落ち着くわ……」


「ありがと。お兄ちゃんのおかげで元気出たわ。――うし! ご飯食べよっか!」


「いただきます!」


「どう、ハンバーグ。味は大丈夫や思うねんけど……」


「『美味しい』? えへへ。ほんま嬉しいわ。あ、お兄ちゃん、ほっぺにソースついとるで。そこちゃう、そこちゃう。こっちや――。ほい、綺麗になったで。なんやお兄ちゃん、風邪でも引いたんか? 顔真っ赤やで」


「――ごちそうさま。そや、ケーキも買ってきたから、一緒に食べよ」


「はい、イチゴのショートケーキ。二人やし、ホールやと大き過ぎるかな思て。これでよかったかな?」


「ろうそくもあるで。ショートケーキやから一本で我慢してな。ほな、電気消すで」


「ハッピーバースデー、トゥーユー。ハッピーバースデー、トゥーユー。ハッピーバースデー、ディア、お兄ちゃ~ん! ハッピーバースデー、トゥーユー!」


「ほら、お兄ちゃん、ふ~して、ふ~」


「お兄ちゃん! 十六歳の誕生日! おめでと~!」


「えへへ。お兄ちゃんが喜んでくれて、ウチも嬉しいわ」


「うん! このケーキ、甘くてめっちゃ美味しいわ! 近所のケーキ屋さん調べて、このお店のが一番おいしそうやったから」


「……お兄ちゃん、食べ合いっこしてもええ?」


「ほら今、ウチら二人だけやん。やから……甘えさせてほしいなって」


「はい、あーんして」


「どう? 美味しい?」


「よかったあ。お兄ちゃんも食べさせてくれへん? はい、あーん――ほら、早く早く――うん! めっちゃ美味しい!」


「めっちゃ甘くて、美味しかったわ」

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