学校で寂しくしているなら、あなたも

「学校で寂しくしているなら、あなたも『自分だけのほ~むらん』をめざしてみない?」

 円佳の瞳は自信たっぷり。

「も、もう一度振ってもらえますか」

「いいわよ」

 ――ブォン!! ブォン!! ブゥヲン!!!

 恐ろしくなる風圧だ。もし自分がピッチャーなら力勝負はできないと薫は思う。球種の組み立てとしては、たとえば外の低めのボールゾーンにチェンジアップと速球を投げたあと三球目に内へ食い込むカットボールで打ち損じをさせたい。つまり対戦しがいのある強敵といえる。

(……! 何考えてんだ俺)

 野球なんて嫌いなはずなのに彼女のスイングに心惹かれている。

 胸騒ぎがした。

「円佳さん……ボールを打つところも見たいです」

 選手生命を失ったことが悔しくて野球を避けてきたが、歴史上そういう不運の選手がすなわち不幸になったとは限らない。ケガなどの経験を生かしてすぐれた指導者になることも多いのだ。

 薫は現役のときバッティングも良かった。円佳にアドバイスできる。

 久しぶりに光を感じた。ほ~むらんという概念はまだいまいち理解していないが、ここで少しずつ野球と関わっていけば自分は立ち直れるかもしれない!

 円佳が微笑した。

「うふふ、わたしも打ちたいけど、投げてくれる人がいないから無理かな」

「打撃練習でしょう? 誰かにピッチャーを頼めば……」

「うち、ピッチャーいないの」

 ……? ウチピチャイナィノー? モンゴル語か何かみたいに聞こえた。

「どういうことです?」

 バットをグラウンドに向ける円佳。

「ほら、みんな自分のために練習してるでしょ? 偶然みんなピッチャーじゃない守備位置でほ~むらんを求めてるから誰もピッチャーはしたがらないの」

「いや、『したがらない』って、試合のときは?」

「当然じゃんけんで決めます」

 と、当然……?

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