「………………ハァ」「王乃さん?」
「………………ハァ」
「王乃さん?」
「すみません、帰ります。日本人なのに信じられんと思うでしょうが、あたし野球キライなんです」
「――!」
「好意で草野球に呼んでくれたのはわかりますが……すみません」
歩き出そうとすると、道に飛び出したエゾシカのごとく円佳が前をふさぐ。
「待って」
「円佳さん……?」
バットを持ち、今までにない凛とした顔。
「言葉では引き留めません。これを見てください」
「なんですか……」
円佳が左打者の構えをした。
薫は驚愕する。
「!? その構えは――」
自然な感じで立ち、ややクローズドスタンス(左打者の場合、右足をホームベース寄りに置くこと)にして、左耳のあたりで持ったバットを後ろに四十五度くらい傾けている。
ま、まるでこれは、
「アキレス腱を断裂しても長打にこだわりつづけて通算歴代三位の五六七本塁打、一九八八年には四〇歳でホームラン・打点の二冠を取った〈不惑の大砲〉、惜しくも二〇二三年に亡くなった
日本の学校ならどこでも、雨が降れば体育の授業は視聴覚室でかつての大野球選手の映像を見る時間になる。薫がそのときに見て戦慄した怪物バッター門川博実と、いま目の前にいる心堂円佳は、まるでコピペのように一致していた!
バットを振るとまたすごかった。高く上げた右足が地面につくやいなや爆発的スイング! 門川の伝説のスイングスピードはバットがボールをかすめると摩擦で焦げたにおいがしたといい、さすがにその域ではない円佳だが、身長一五〇センチ台前半のやまとなでしこがこんなに強く振れるなんて! そんな女子を薫は他に一人しか知らなかった。
「あなたは一体……!?」
「『ほ~むらん☆
「ほ~むらん倶楽部?」
「あいだに
「あ、はい」
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