高校なんてド田舎でも女子校でも絶対野球部があるだろ

「高校なんてド田舎でも女子校でも絶対野球部があるだろ。放課後のたびにグラウンドの打球音を聞く生活なんて……そんな生活、耐えられねえよ」

「そう思うのはわかっている。だが違うんだ」

「?」


「日本にある五千以上の高校のうち、ただ一つ野球部のない高校、それがタイ女だ」

「!?!? そんな学校が、あるのか――!?」


「山奥にあるから他校の打球音も聞こえん。まったく野球に縁のない場所だ。それに王乃一族は賢いからタイ女でも落ちこぼれんだろう」

「確かに勉強はできるけど……」

「それともまだエロマンガ島でくすぶりたいか?」

「うっ……」

 正直薫も今の状態は苦しかった。ときどき勝手に涙が出るくらいに。

 気分と環境を変えなきゃ自分はこのままつぶれてしまう。

 女装でも何でもダメもとでやるしかないんだろうか?

 きっとそれしかないんだろうな、という気持ちが沸いてきた。

「――ハア、しょうがない。春から女子高生だ」


 ~回想おわり~


 昼休み、食堂でロブスターの海鮮丼を食べているあいだも「王乃さん! 王乃さん!」と部活勧誘がしつこく、早食いして逃げた。

 校舎の裏手をブラブラして時間をつぶした。

 誰も追いかけてこない、つかのまの休息。

 タイ女は東京都・奥多摩町の山あいを切り開いた土地にあり、緑にかこまれ、この季節はうぐいすがホーホケキョと鳴いて快適だ。とはいえ……

(……ダメだ、ずっと男バレを気にしなきゃいけないとか……こんなことなら外国語をがんばって、野球のない文化後進国に留学すればよかった……)

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