汚れた魔力の天女を止めて4

「……何か戦ってるのか?」


 様子は分からないけれど何かがクワインデカルトと戦っているようだと圭は思った。


「……みなさん逃げてください!」


 風馬が何かを感じ取った。

 素早く剣心に近づくと抱きかかえて横に飛ぶ。


 圭たちも風馬が何を感じたのか聞く暇もなく慌てて近くの建物のそばに寄るようにして道の真ん中を開ける。


「きゃっ!」


「うわっ!」


 次の瞬間閃光が走った。

 道の真ん中を飛んでいった魔力の閃光にクワインデカルトが消し飛んだ。


 風馬が警告しなければ巻き込まれて死んでいたかもしれない。


「……人? だが何でこんなところに」


「それに様子がおかしいね……」


 真ん中のクワインデカルトが消し飛んで跳ね橋の前が見えるようになった。

 跳ね橋の前には女性がいた。


 ただ様子はおかしく、肌は先ほど三上がなったように紫がかった黒色をしている。

 白目まで黒くなっていて迫り来るクワインデカルトをひたすらに切り捨てている。


『エスギス・リンデンジーク

 神の血を引き天女と呼ばれた半人半神の女性。

 かつて失われた世界□□□□□□で起きた神魔大戦で魔王と戦い活躍した。

 イスギスの裏切りによって汚染された魔力によって堕ちてしまった。

 それでもエスギスの強い意思は戦うことをやめなかった。

 エスギスは魔王軍のチュビダスを倒すことに成功したが汚染された魔力のに囚われて死ぬことも出ることもできなくなった。

 ーー以下閲覧制限ーー』


「あれが……エスギス」


 少し距離はあるけれど真実の目で女性のことを確認することができた。

 黒く染まった女性の正体はエスギスだった。


 予想はしていたけれどひどく痛ましい姿である。

 肌が黒く染まっているだけでなく戦いのためか全身ボロボロで瞳は光を宿していない。


 エスギスは剣とカレンが持っているとも同じように見える盾を持っていて、剣一振りごとにクワインデカルトが吹き飛んでいく。


「モンスター同士が戦っておる。これはどういうことなのか……」


 違うゲートの外に出たモンスターが戦うことはある。

 しかし同じゲートのモンスター、しかも中でモンスターが戦うことなど誰も見たことがなかった。


「どちらを狙えばいいんでしょうか?」


 みんな困惑している。


「……あちらの女性の方がボスモンスターです」


 あれがエスギスなら倒すべき相手はエスギスである。


「うむ、分かった」


 圭の鑑定スキルは本物であるともう剣心も信頼を置いている。

 圭がそういうのならエスギスの方がボスモンスターなのだろうと信じることにした。


「どうしますか?」


 というのもクワインデカルトはまだ多く、またエスギスの姿が見えなくなってしまった。

 クワインデカルトはエスギスと敵対しているけれど敵の敵は味方なことなんてない。


 近づけばクワインデカルトは圭たちのことを敵対視して攻撃してくるだろうと思われた。


「少し様子を見てみましょう」


 少なくとも近づかなければエスギスとクワインデカルトは敵対して互いに攻撃しあっている。

 風馬の判断で建物の影に隠れてクワインデカルトに見つからないようにしながら休憩を取ることにした。


 簡単に食べられるエナジーバーで栄養補給してエスギスとクワインデカルトの戦いを見守る。

 時々強い魔力がほとばしりクワインデカルトがまとめて消し飛ぶ。


 風馬の作戦が当たりクワインデカルトの数が次々と減っていく。


『汚染された魔力が一定量を超えました。汚染された魔力の霧が発生します』


「……これは」


 圭の前に表示が現れた。


「何だか……空気が黒く……」


 急に黒いモヤのようなものが発生して視界が少し悪くなった。


「ぐっ……!」


「木嶋さん、大丈夫ですか?」


 二人の覚醒者がとたんに苦しそうな表情を浮かべ始めた。


「この空気の影響か?」


「……二人ともD級ですね」


 苦しんだ人を見て風馬があることに気づいた。

 今苦しんでいるのはどちらもD級の覚醒者であったのだ。


「何が起きてるんだ?」


『汚染された魔力が一定量を超えました。汚染された魔力の霧が強化されます』


「うっ!」


 次の表示が見えた瞬間圭も全身に痛みが走って膝をつく。


「…………今度はC級か」


 苦しみ出したのは圭だけではない。

 波瑠や夜滝、他の覚醒者も苦しんでいる。


 右近は平気だけど左近は苦しんでいる。

 このことから今度はC級までの人が苦しんでいるのだと風馬は思った。


「み、みんな大丈夫かよ?」


 そんな中でもカレンは平気だった。

 どうしたらいいのかと困惑した表情をしている。


「カレン……盾」


「あ、ああ!」


 まさかと思ってカレンの盾を見ると淡く光っていた。

 カレンが圭に盾をつけると体がスッと楽になる。


「やっぱり黒い霧の影響……モンスターにやられたのと同じような効果があるみたいです」


「全員が盾に触れられるわけじゃないからな……」


 風馬が顔をしかめる。

 カレンの盾は黒い霧にも効果がありそうだがこの場にいる全員が盾に触れるのは現実的な解決方法ではない。


「魔力を込めてみたらどうだ?」


「何に?」


「盾にだよ」


 魔道具の効果を発揮させるのに魔力を込めることがある。

 ダークリザードマンの時のことを思い出してみれば盾の効果範囲が広がって圭たち全員の死の気配が払われた。


 もしかしたら同じようなことが可能かもしれないと思った。


「うん、分かった」


 普段も魔力は込めているがそんなに多くの量は入れていない。

 カレンは物は試しに盾により多くの魔力を込めてみた。

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