汚れた魔力の天女を止めて3

「なんでもいい……早くしてくれ」


「カレン、盾を」


「あっ、なるほど!」


 カレンは圭が何を言いたいか察した。

 三上の傷のところにカレンが盾をくっつける。


「うっ!」


「これは……」


「三上さん、大丈夫ですか?」


 カレンの盾が腕についた瞬間三上がうめき声を上げた。

 傷口から灰色の煙が上がり三上の顔が苦痛に歪む。


「見ろ、黒いところが小さくなっている」


 肩近くまで広がっていた黒いところが少しずつ小さくなって普通の肌色に戻りつつあった。


「盾にこのような力があったとはな」


 腕に盾を当てていると最後には完全に腕から黒さが抜けた。

 黒くなったところが無くなった後薫が治療をすると今度は傷口が塞がっていく。


「ハァ……」


「体は大丈夫そうですか?」


「問題ない。助かったよ、お嬢さん方」


「……僕男なんですけど」


 三上は汗だくになりながらもなんとか峠を越えた。


「村雨さんが言っていたのはこういうことか。想像していたよりも酷いものだな」


「そうですね。八重樫さんとバーンスタインさんがいてくださってよかったです」


 もし仮に圭たちに声をかけていなかったら今頃誰か犠牲になっていただろうと風馬は顔をしかめる。


「一度戻りますか?」


「いや、このまま行こう。体大丈夫だから」


「分かりました。みなさんも攻撃を受けないように防御を重視してください!」


 クワインデカルトの攻撃の危険性は分かった。

 現時点でカレンの盾しか治療の方法がない猛毒のようなものだと思うことにして攻略を進めることにした。


「何体かあのモンスター奥の方に向かっていきましたね」


 戦いの時にクワインデカルトがおかしな動きをしていたことに薫は気がついていた。

 戦いが始まってほとんどのクワインデカルトは圭たちの方に向かってきたのだが、圭たちから離れて現れたクワインデカルトは別の方向に走っていってしまったのである。


 まだ戦いは始まったばかりでクワインデカルトが圭たちから逃げるような要素はなかった。

 なのにどうして逃げてしまったのだろうか。


「とりあえず警戒を強めて進みましょう」


 傷つけられると謎の毒のようなものに冒される。

 普通ならモンスターを解体して魔石を取り出したりするのだが今回は単に攻略が目的であるのでクワインデカルトの死体には触れないようにして先に進むことにした。


「しかしなんでこうして活動を?」


「えっ? なんでですか?」


「鑑定スキルだよ。それだけのスキルがあれば覚醒者としてゲートに入らずとも億万長者なれるだろう」


 須崎にも鑑定できないようなものを鑑定し、モンスターの能力すら見抜いている。

 大企業、あるいは大きなギルド、国でさえ欲しい能力だろうと剣心は思う。


 剣心の能力である魔道具の封印を解除する力でもかなり重宝されている。

 圭の能力ならば戦わずとも左うちわで悠々と暮らせるはずなのだ。


「……やるべきことがあるので」


 最初の頃はそんなことも考えた時がある。

 ただ覚醒者の能力まで分かるという特殊な能力から周りにバレてはいけないと力を隠すことにした。


 そうしているうちに圭たちには世界の命運がかかっていることになってしまった。

 鑑定をして悠長に生きている暇ではなくなってしまったのである。


「やるべきことか……それがなんなのか分からんがお金よりも大事なことなのだな」


「そうですね」


 命の危険がなく大きなお金を持って生きることに憧れはある。

 しかし何も知らないまま生きていくよりもこうして日々足掻いている方がよかったかもしれないと思うこともある。


「また来ましたよ! 怪我しないように気をつけてください!」


 中心部の方に進んでいくと再びクワインデカルトが現れて襲いかかってきた。

 体の大きいものや四足歩行のもの、尻尾や翼が生えているものもいた。


 真実の目ではどれもクワインデカルトで説明にも違いはなかった。

 体の作りが違うので多少の戦い方の違いはあったものの能力的な違いはない。


 高等級覚醒者である風馬や右近を中心に怪我をしないように気をつけながらクワインデカルトを倒す。


「お城だいぶ近づいてきたね」


 町の中央には半壊した城が見えていた。

 中央部に向かうということは城に向かっているということであり、遠くに見えていた城がだいぶ近づいてきていた。


 目立つ建物がボスの住処になっていることも少なくない。

 中央部に向かっていくとクワインデカルトが出てきていることも考えるとお城に何かがありそうだとみんなが思っていた。


「みなさん止まってください!」


 先頭を歩いていた風馬が歩みを止める。

 目を凝らして先の方を見ていて、後ろにいた圭たちも何があったのかと覗き込むように前を見る。


「なんだあれ?」


「モンスターがたくさんいるな」


 はるか前方、お城の堀にかけられた跳ね橋の前にクワインデカルトが大量に集まっている。

 けれどもクワインデカルトは圭たちの方を向いていない。


 なぜかお城の方を見ているのである。

 そしてクワインデカルトの向こう側、跳ね橋のほうでクワインデカルトが急にぶっ飛んだりしているのが時々見えた。

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