アツアツ、モフモフ2

 また暑い場所なのかとみんな不満そう。

 波瑠はまだ八階に来たばかりなのにもう暑さにやられているような顔をしていた。


「私にもやって〜」


「しょうがないねぇ」


「ありがとぉ〜」


 相変わらず夜滝は氷と風の魔法をミックスして魔法クーラーで涼んでいた。

 波瑠が死にそうな顔をするものだから冷風を当ててやると猫のように目を細める。


「ふっふっ、ただ今回は秘密兵器ありだ」


 前回で過酷さを分かっているので余計に辛く感じられる。

 

 圭はニヤリと笑うと荷物の中から小瓶を取り出した。

 

 中にはブルーハワイのようなきれいな青い液体が入っている。


「それは?」


「クールダウンドリンクだ」


「クールダウンドリンク?」


「ああ、九階では体を温めるためのドリンク、飲んだだろ? あれの逆バージョン。今度は体を冷やすドリンクだ」


 以前は八階を攻略する時は服を脱いで何とか凌ぎつつレッドフォックスを倒し、九階では厚着をしながら体を温める効果のあるドリンクを飲んで攻略した。

 体を温める効果を持つドリンクがあるのならば体を冷やす効果を持つドリンクもある。


 以前買った体を温めるドリンクと同じ製薬会社が出しているドリンクを今回買ってきた。

 いかにも体が冷えそうな氷のデザインが描かれたラベルが貼られた小瓶を波瑠に渡す。


「うん……意外悪くない……ちょっとラムネっぽい味かな?」


 お菓子のラムネのような味がする。

 不味くはないけれどそんなにごくごく飲んでいたいものでもない。


 一応分類状は薬なので美味しく飲めるだけありがたくはあるのだけれども。


「あ、でもすごいですね」


 クールダウンドリンクの効果はすぐに現れた。

 飲んだそばから喉やお腹がスーッと冷たくなっていった。


 そして体の中が程よく冷えていって外は暑いのだけれどそれほど気にならないといった感じになった。

 クールダウンドリンクの効果に薫も驚いている。


「ジー……」


「フィーネも飲むか?」


「イイノ?」


「ああ、いいぞ」


 フィーネは周りの温度に左右されることがない。

 汗をかいたり体が冷えて動かなくなることもないのでドリンクで体を保護する必要はない。


 だけどみんなが飲んでいるのが羨ましいのかじっと小瓶を見ているので一本渡してやる。

 多めに持っているので一本ぐらいなら問題ない。


 寂しがり屋なフィーネのことだし一人だけ仲間はずれだというのも可哀想だ。


「プハァー! コノイッパイノタメニガンバッテル!」


「ふふっ、んなもんどこで覚えてくんだよ?」


 予想外の一言にカレンが吹き出してしまう。

 フィーネは時々不思議な言葉を使う。


 テレビや動画で見たものをいつか言おうとフィーネは狙っていたりするのだ。

 クールダウンドリンクのおかげで汗をかかないぐらいに体が冷えた。


 ドリンクの効果時間の問題もあるので早速動き出す。

 八階は過酷な環境なために塔を登ろうとする人以外にモンスターの狩場としては不人気な場所である。


 なのでクールダウンドリンクなどを用意して来ればモンスターを探して倒すのにはさほど苦労することもない。

 レッドフォックスを倒すのはゲートと塔を登る時の二回やっているので今回で三回目となる。


 自由に攻略をしていて同じモンスターと何回も戦うことは多くない。

 二回の戦いでも特に苦労した相手ではなかったのでレッドフォックスと戦うことにあまり緊張もなかった。


「んー、あっちにいるよ!」


「オッケー!」


 波瑠が空からレッドフォックスを捜索してくれる。

 背中に生えた翼を羽ばたかせて上手くバランスを取ってグルリと周りを見回している。


 ちょいちょいと飛ぶ練習を行なっていて戦いではない平常時なら比較的自由に飛べるようになっていた。

 戦いの時は戦いで激しく動きながらという必要があるのでまだもう少し慣れる必要がありそうだった。


「あれ?」


「波瑠、どうかしたか?」


 上を飛びながらついてきている波瑠が急に止まった。

 圭たちもそれに気づいて波瑠を見上げる。


「なんか……あっちに白いのが見えるんだ」


「白いの? なんだ?」


「ちょっと遠くて分かんない」


 キョロキョロとレッドフォックスを探していた波瑠は視界に白いものが見えて止まった。

 赤茶けた大地と赤いレッドフォックスの世界で輝くような真っ白なものはひどく目立っている。


「行ってみようか」


 八階において違和感のあるもの。

 これは当たりかもしれないと圭は思った。


 波瑠の案内で白いものの方に向かっていく。


「んー、あれはなんだろねぇ?」


 地上を歩く圭たちの目にも波瑠の言う白いものが見えてきた。


「卵……?」


「ああ、きっとそうだな」


 より近くまで行くと白いものの正体がハッキリとした。

 それは大きな卵であった。


『レッドフォックスを倒せ!

 レッドフォックス 30/30 クリア


 シークレット

 フェンリルの卵を守れ!』


 圭は改めて試練の確認をする。

 シークレットクエストはフェンリルの卵を守れというものである。


 フェンリルの卵がどんなものなのか分からなかったけれど真っ白で八階の世界に異質ないかにもな卵はどう見てもフェンリルの卵ってやつだろうと思った。

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