覚醒者チュートリアル7

 カレンもカレンで力を遺憾なく発揮している。

 普段はタンクという役割で防御に徹することも少なくない。


 だけどカレンは筋力の才能値が高くて力が強い。

 体も丈夫でスキルの関係で多少の怪我は恐れずに攻撃することもできる。


 攻撃に回るとカレンの破壊力は侮ることなどできないのである。


「この階も順調だな」


 カレンが倒したアイスシープで必要な数の半分に達した。

 このペースなら今日中に九階も終わらせられそうだと思った。


「な、何か来ますよ?」


「なんだ?」


 続けてアイスシープを探していた薫が遠くの方に何かを見つけた。

 真っ白い景色の中で白く何かがモワモワとしている。


 それがなんなのか分からなくて立ち止まった圭たちは目を凝らす。


「アイスシープだな」


「1……2……なんかいっぱいいません?」


「ちょっとアレだな……カレン、頼む!」


 モワモワの正体はアイスシープだった。

 ただアイスシープがモワモワしているのではなくアイスシープは圭たちの方に走ってきていて、そのために雪が舞い上がって白くモヤのように見えていたのだ。


 アイスシープの数も多く、このまま正面衝突するのは危険である。


「大地の力!」


 ただカレンであってもまとめて複数体のアイスシープを引き受けるのは厳しい。

 カレンが盾を雪に突き立て魔力を送り込む。


 雪の下の地面がカレンの魔力に反応して動き、圭たちを守るように盛り上がってきた。


「うわっ、こわっ!」


 アイスシープもカレンが作った壁を見れば止まるだろうと思っていたのだけど、激突するような音が続いて壁にビキリと大きなヒビが入った。

 一瞬緊張感が走ったのだがどうにか壁は壊れなかった。


 しかし続いてまたドンドンと壁を攻撃する音が聞こえ始めた。


「いいか? いくぞ!」


 カレンは大地の力を発動させる。

 ヒビをを直しながら壁の真ん中を開く。


「私に任せて!」


 二匹のアイスシープが中に飛び込んできて、カレンはまた壁を閉じた。

 波瑠が前にでる。


 アイスシープに魔力を向けながらナイフで乱雑に顔の辺りを切り付けると痛みと魔力でアイスシープの注目が波瑠に向く。


「だいぶ板についてきたねぇ」


 アイスシープは突撃をやめ、切り付けて通り過ぎていった波瑠を見て圭たちに背中を向ける形となった。

 大きな隙ができた。


 夜滝が大きな火の玉を撃ち出してアイスシープを同時に燃やした。

 アイスシープのモコモコとした毛は保温性に優れていてアイスシープの体を厳しい環境から保護してくれている。


 同時に水や氷といった属性の攻撃に対して高い防御力を誇っている。

 その代わりに非常に火に弱いのである。


 一度アイスシープの毛についた火はなかなか消えない。

 悲鳴のような声を上げながらアイスシープは雪の上を転がって火を消そうとするが、燃え広がる速度の方が早くて消化できない。


 そのまま放置していても燃えて死んでしまうだろうが苦痛に悶え苦しむ様を眺めている趣味はない。


「ピッピ!」

 

 他にアイスシープはいて、いまだに壁を体当たりしている音が聞こえているからさっさとトドメを刺してあげる。

 フィーネの大鎌がアイスシープの体を簡単に真っ二つにした。


「次行くぞ!」


 カレンが大地の力で地面を操って少し壁を開いてアイスシープを招き入れながら壊れ始めていたところを修復する。

 こうして少しずつアイスシープを倒していって危なげなく最後まで倒し切ることができた。


「少し回り込めば来れたのにな」


 カレンが出した壁は前方を広く守るもので普通に側面に回り込めば壁の裏に来ることができる。

 しかしアイスシープたちはそのことに気づかなかったようでずっと壁に体当たりしたり魔法で攻撃したりしていた。


 羊だけど猪突猛進なモンスターである。


「ちょっとビビったけど上手く処理できたし数もこなせたな」


 一気に11匹ものアイスシープが襲いかかってきていた。

 カレンのスキルのおかげで上手く戦うことができたし、一気に来てくれたおかげで残りのアイスシープもわずかとなった。


「うーん、次の階へのエントランスに向かいながら探そうか」


 上手くいけばエントランスに到着する頃には倒し終えているかもしれない。

 そうでなくともエントランス付近でアイスシープを探した方が移動が少なくていいと考えた。


 移動しながら波瑠がアイスシープを見つけたりしてエントランスについた時にはすでに試練はクリア状態になっていた。


「時間は少し遅くなっちゃったけどなんとかいけたな」


 想定していた帰宅時間は過ぎてしまったが九階もこれでクリアである。


「十階も見ていこうか」


 見て戻るだけなら時間もかからない。

 圭たちはエントランスを通って十階に登った。


「はぁ〜あっけえなぁ」


 真っ白な景色が一転して自然豊かな草原が十階の舞台だった。


『シタチュフリスガの巣を探せ!


 シークレット

 王の遺品を見つけろ!』


「したちゅ……ふりすが?」


「巣を探すだけでいいのか?」


「いやそれで終わりじゃない」


「そうなのか?」


「これまでの階は一つの試練だったけどこの階からは試練がいくつか続けんだ」


「へぇ、これまでとちょっと違うんですね」


「ああ、だからこれまでの階をチュートリアルなんて呼んでここから本番だなんていうのさ」


「なるほど……」


「とりあえず帰ろう。ここからは一つの階での攻略も長くなるからしっかりと準備しないとな」


 圭たちはさっさと九階、八階と抜けて一階まで降りてきた。

 少し遅くなってしまったので波瑠や薫の家に連絡をしてみんなで晩御飯を食べてから解散することにした。

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