覚醒者チュートリアル6
ある程度近づいたところでアイスシープも圭たちに気がついた。
体を圭たちの方に向けて睨みつけ、雪を踏み鳴らして頭を低く突撃するような体勢を取った。
「来るぞ!」
雪を蹴ってアイスシープが走り出した。
「任せとけ!」
カレンが前に出て盾を構える。
挑発するまでもなくアイスシープはカレンに突撃してきて盾と正面から衝突する。
ゴインと鈍い音がしてカレンとアイスシープそれぞれが弾き飛ばされた。
アイスシープの力が思いのほか強かったことと雪という足場の悪さにカレンでも堪えきれなかったのである。
ただアイスシープに大きな隙ができた。
「あれっ!?」
素早くアイスシープの側面に回り込んだ波瑠がナイフを振り下ろした。
しかしナイフに想像していたような手応えはなかった。
まるで空を切ったように軽い。
「げっ!」
アイスシープの方もダメージなど無いように波瑠のことを睨みつけた。
「あぶねっ!」
アイスシープの氷のようなツノの周りに鋭く尖った氷が一瞬で生まれ、波瑠に向かって飛んでいく。
波瑠は上半身をねじってなんとか氷をかわした。
「おりゃ!」
波瑠に気を取られた隙をついて圭が剣を振り下ろした。
圭も手応えがなくておやっと思った。
けれどほんの少し遅れて手にアイスシープを切り裂く感覚が返ってきた。
「なるほど毛か」
アイスシープが倒れて動かなくなった。
戦いが終わって冷静になってみると手応えの違和感の原因もすぐに分かった。
雪玉と見間違うほどにモコモコとしていて丸い大きな毛が原因だった。
倒してよくみると毛の部分が分厚い。
本体部分も決して小さいわけじゃないけれど見た目から勝手に想像していたところよりも本体は奥にあった。
だから波瑠のナイフは空を切ったような感じだったし圭も一瞬手応えを感じられなかったのだ。
「もっとしっかり踏み込んで切らなきゃ体には届かないね……」
普通の剣ならともかくナイフだと毛の中に手を突っ込むぐらいでないとアイスシープを切り裂けなさそうである。
「まああんまり無理すんなよ? たまには私も活躍したるからさ!」
「確かにそうした役割分担もやってみる時が来たのかもな」
モンスターのヘイトを稼いで引きつける役割を果たすのがタンクの役目である。
しかしその方法は盾を持って立ちはだかるというものだけではない。
モンスターを引きつけていなす方法として速度による回避を重視したやり方もある。
回避し続けるというリスクや体力の消耗が大きいということからメジャーなやり方ではないが、強い力を持つモンスターを相手にする時には盾で防御するよりも有効なことがある。
これまで圭たちはカレンをタンクとして置いてきたけれど、スピードタイプの波瑠がスピードタイプのタンクの役割をやってみるという戦略の拡大もありかもしれない。
「試してみようか」
いざという時にモンスターを引きつけられれば役立つこともある。
今回物は試しと波瑠がタンク役を担ってみることにした。
「ふおおっ〜!」
次のアイスシープを見つけた波瑠が手を伸ばして集中している。
カレンは魔力を飛ばしてモンスターを挑発しているけれど、これは別にカレンだけの特殊技能ではない。
魔力を持っていてコントロールできれば誰でもできる。
波瑠は自らの魔力を放ってアイスシープを挑発しようとしているのだが意外と上手く魔力を向けられなくて苦心していた。
案外魔力のコントロールが下手くそである。
「だぁ〜!」
一応最初はアイスシープを引きつけられるのだけど、戦い始まってアイスシープの攻撃を避け始めると魔力を向けていられなくて圭やカレンの方にアイスシープが向かってしまうのだ。
タンクとしての役割を上手く果たせずに波瑠は少しイラついていた。
その点で圭は戦いながら相手に魔力を向けて引きつけるタンク的な行動もそつなくこなせていた。
「難しい……カレンってすごいんだね」
「ようやく私の凄さが分かったか」
体に魔力を巡らせたり武器に魔力を込めることは全く問題ないのに魔力を放出し続け、上手くそれを相手に向け続けるというのは全く異なる技能なのである。
「それでも最初よりは良くなってるんじゃないか?」
敵を引きつけるためには敵が攻撃できる隙というものも必要になる。
波瑠は最高速度ではなくスピードを落として敵の視界に入り続けるような動きを意識していた。
近づいて軽く攻撃したりと防御重視のカレンとは違った気の引き方というものを試行錯誤している。
お陰で少しずつではあるけれど波瑠もアイスシープを引きつけるのが上手くなっていた。
「ほれほれ、こっちだよ〜」
倒すべき残りのアイスシープが一桁になる頃には波瑠も最後までしっかりとアイスシープを引きつけられていた。
魔力を向けながら軽く顔の近くを攻撃したりして苛立ちを募らせるようなやり方も駆使していて、アイスシープは波瑠に翻弄されてその場をぐるぐると回るように波瑠のことばかり見ている。
「いい感じじゃねえか!」
お陰でカレンもアタッカーとしての力を発揮できる。
思い切りスイングされたカレンのメイスは頭に当たり、氷のツノをへし折りながらアイスシープを吹き飛ばす。
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