逃げてきた悪魔の使徒4

「どうして俺の目が悪魔なんですか?」


「ふむ、少し目を見させてもらってもいいか?」


「どうぞ」


 ダンテが手を圭の前に差し出す。

 黒い魔力の椅子から立ち上がったルシファーはダンテの手の先までゆるりと歩く。

 

 ちょうどルシファーの頭が圭の頭の高さと同じになって、ルシファーはジッと圭の目を見つめる。

 小さいから分かりにくいけれどルシファーはとても綺麗な顔をしている。

 

 女性というのは意外だったけれど悪魔だし性別なんて変えられるのかもしれない。


「大丈夫だ」


 ルシファーが手を伸ばしてきて圭はびくりとする。

 眼球に触れられるかと思ったのだ。


「……なるほどな」


 眼球スレスレまで手を伸ばしたルシファーはふっと笑った。


「お前の目は悪魔の目だ。それもなかなか凄い目だぞ」


 再び椅子に座ったルシファーは興味深そうに圭のことを見る。


「悪魔の目ってどういうことなんですか?」


「見る悪魔が見れば分かる……元の悪魔の力の残滓が残っている。どうやったのかは知らないがお前は悪魔の力を取り込んで自分のものにしてしまっているのだ」


「悪魔の力を取り込んだ……」


 おそらくだが悪魔の目と言われているのは圭のスキルにある真実の目のことだろう。

 しかしそれはあくまでもスキルである。


 さらにはスキルとして得たのも悪魔から与えられたわけではなく、スキル石として落ちたもので気を失って倒れた際に習得してしまったという経緯がある。

 たまたま上から降ってきたモンスターに潰されて死んだヘルカトは特殊な個体かもしれないと言われていたが、もしかしたら悪魔だったのだろうかと圭は思った。


 確かに性格的には圭を痛めつけるような悪魔的なヘルカトだった。


「その目の元の持ち主は準魔王の悪魔だ」


「準魔王……?」


 また知らない単語が出てきた。


「悪魔にも序列のようなものがある。強い悪魔や強い勢力を持つ悪魔の中でトップ、私のような悪魔の何体かは魔王と呼ばれることもある。ただ存在するだけでは魔王ではいられず下の悪魔も魔王の座を狙っているのだ。魔王の座を狙う悪魔の中でも魔王に肉薄する力を持つ悪魔を準魔王と呼ぶ」


「んーと、つまりこの目を持っていた悪魔はそれだけ強かったってことか?」


「単純な言い方だが間違ってはいない」


 準魔王は魔王と呼ばれるような悪魔にも匹敵する力を持った悪魔のことである。

 圭の目の元となったヘルカトも準魔王と呼ばれるような力を持った悪魔であったとルシファーは言う。


「そいつの名前は知らないが……半神の格まで手に入れた悪魔だった」


「半神、というと神様?」


「そうだよ。正確にはそいつが神として信仰されていたわけではなくどうやってか神を騙して自分の場所に呼び込んで喰らったのだ。そうやって神としての格を手に入れたイカれた悪魔だ」


 魔王とまで呼ばれるルシファーにイカれたとまで言われる悪魔。


「そいつが喰らった神もただの神ではなかった。知識を司る神で知識の泉を使うことができる神格の持ち主だった。……知識の泉とは神の世界にある、あらゆることの知識が集まっているものだ」


 圭が知識の泉を知らなそうなことを察したルシファーが先に説明してくれた。


「そのおかげかその悪魔も知識の泉にアクセスすることができたらしいな。本物の神格ではないのでアクセスできたのも一部のようだが」


「じゃあこの目の能力は……」


「悪魔の能力の一部が扱えるのだろうな」


 真実の目ではモンスターの情報や人のステータスを見ることができる。

 これはヘルカトが持っていた能力なのであった。


「おそらくゲームとやらのシステムが悪魔の能力をスキルとして習得可能にしたのだろうな」


 圭が軽く真実の目を得た経緯を話すとルシファーは深いため息をついた。

 悪魔の力を得られるようにするなど神も行わない冒涜的な行い。


「それにしても不思議だ……」


 ルシファーは改めて圭の目を見つめる。


「たとえシステムで得られたものだとしても悪魔の力は人の体に馴染まない。だがお前の体はその目をごくごく自然なものとして受け入れている」


 スキルとして受け入れたとしても悪魔の力は人間に扱えるものではない。

 悪魔が人間に与えたのならともかく、そうではない力を圭は完全に支配下に置いている。


「悪魔の力が体に馴染まないものだと苦しむこともあるがそうしたことはないのだろう?」


「ええ……」


「まあ見たところ全ての力ではなくある程度抑えられてはいるようだ。悪魔が扱えた知識の泉も全てではなかったがお前の目はそのさらに一部の不完全な知識を扱えるようだな」


 不完全な知識。

 言われてみれば分かるような気がする。


 圭が真実の目でモンスターなりを見た時に全ての情報ではなくある程度中途半端な情報が見えているような気がしていた。

 覚醒者を見るとステータスしか見えないし不完全と言われると納得してしまう。


「どうしてその目がお前の体に馴染んでいるのか私にも分からない。だがその目がお前に害をなすことはないだろうな」


 ずっと疑問だった不思議なスキル真実の目についてようやく疑問が解けた。

 ヘルカトは準魔王と呼ばれるほどの悪魔であり、神を喰らって知識の泉という色々な情報を扱う力を得た。


 そしてヘルカトが死んだ時にゲームのシステムによって悪魔の力の一部がスキルとしてスキル石になって圭が偶然力を得てしまった。

 ヘルカト自信が神の力の一部しか持っていなかったがスキルになる過程でさらに力は一部の一部になって圭に宿った。


 色々なものの情報が見れたり、塔でもシークレットクエストが見れたりするのは知識の泉の影響だったのである。

 圭がなんの代償もなく悪魔の力を扱えていることなどまだ多少の疑問はあるけれど大きな疑問は解決した。

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