逃げてきた悪魔の使徒3
「どうして他の悪魔に狙われているんですか?」
「……この世界は歪んでしまった。モンスターなどという不可解な存在が現れたこともそうであるが神も悪魔も人に関わりやすくなりすぎている」
「どういうことですか?」
圭は訳がわからないといったように首を傾げた。
「本来なら神だろうと悪魔だろうと人間に関わるのは容易なことではない。悪魔を呼び出すことを考えてみろ。供物をささげたり対価として魂を差し出すなんていったり大きな理由がなければ悪魔は呼び出せず、力を与えることもない」
ルシファーが指を鳴らすとダンテの手の上で黒い魔力が集まって椅子の形を成した。
椅子に座ったルシファーは肘掛けに肘を置いて頬杖をつく。
「神も同じく簡単には人と関われない。これが世界のルールだった。しかしモンスターが現れたのと同じぐらいから神も悪魔も人と関われるようになってしまった」
ルシファーはため息をつく。
「何も考えない悪魔は喜んでいた。より人間を騙して集め、自分の力を高めることができるとな。しかし私はこんな歪んだ世界をおかしいと思った」
確かに悪魔が人間を取り入れることが容易になったのは喜ばしいことかもしれない。
しかしルシファーはなんの理由もなくそんな時代が訪れたことに疑問を抱いていた。
他の悪魔は人間を手のひらの上で転がして満足しているようだが、ルシファーは何かの手のひらの上で転がされているように感じられて仕方なかった。
「そして分かったのだ。人間も悪魔も神でさえも大きな遊戯の中に囚われているのだとな」
圭は驚いた。
圭たちは神様に教えてもらってようやく今の状況が神々のゲームの中であると知った。
けれどルシファーは自らの力によって世界が置かれた状況に気がついたのである。
「だから私は主張した。敵は分からないけれどこのままでは何かに我々の世界はやられてしまうとな。しかし馬鹿な悪魔どもはまるで私の方がおかしくなったように話を聞き入れなかった」
ルシファーは忌々しそうに吐き捨てる。
「それどころか自分の勢力が拡大したのをいいことに徒党を組んで私を排除しようと動き始めたのだ。ただ私を直接狙うのは怖いから私の使徒を狙ったというわけだ」
だから敵対するつもりがないのならダンテもルシファーも圭たちを今後攻撃するつもりはないようだ。
「信じられない話だと思うが……」
「いえ、信じます」
圭たちは一度顔を見合わせた後大きく頷いた。
「……話している私ですら信じがたあのと思っているのだぞ?」
「実は……」
圭は今この世界が神々のゲームに巻き込まれていることをルシファーに説明した。
ルシファーが気づいたということは圭たちが知っていることとほぼ同じであったが、ルシファーはその情報を受け止めて共有する仲間もおらず半信半疑だった。
圭の説明を受けてルシファーは驚きに目を見開いた。
圭が神々のゲームのことを知っていることも驚きであるし本当にゲームに巻き込まれていることにもまた驚きだった。
「どうしてそんなことを知っている?」
なんの変哲もない人間。
圭からは不思議な悪魔の力を感じるけれど圭以外は特に目立ったような印象もない。
「俺たちはこのゲームを終わらせるために戦っています」
「なるほど……」
神に説明を受けて全てを知ったことを教え、圭たちの目的を告げるとルシファーは考え込むように顎に手を当てた。
「この世界の猶予は少ないようだな」
ルシファーが想像していたよりも遥かに事態は深刻であった。
「私は無駄に力を与えて勢力など作るつもりはなかったが……そうも言っていられなさそうだ。他の悪魔共にも礼をしてやらねばならないし……」
妖しく笑うルシファーから黒い魔力が溢れる。
世界滅亡の危機に気に入ったものにしか力を与えず自分の勢力を持たないなどと悠長なことを言っていられないとルシファーは考えた。
どの道襲いかかってきた悪魔には復讐するつもりだった。
この際勢力を奪ってやるのも面白いかもしれないと頭の中で計画を練る。
「もしかしたらこの先激しい戦いになるのかもしれないだろ?」
「そうですね」
「ならば私たちも戦う備えをしよう。今まだ力になってやれないがそのうちこのルシファーがお前たちを助けると約束しよう」
なぜ圭たちなのかとか圭たちで本当に世界が救えるのかとかルシファーは聞かなかった。
ルシファーは神という存在が嫌いだが世界を想う気持ちは本物で圭たちに何かを託したのなら本当に世界を助けられる人なのだろうことだけは確かだと信じていた。
疑問を持ったたころで何も解決しない。
ルシファーはルシファーの道を進むだけ。
「……ありがとうございます」
「ふん、結局世界が滅びれば私たち悪魔も滅びるのだ。お前たちを救うのではなく私のためにやるのさ」
「それでもです」
「ふっ、変な人間だ。まあいい、今日こうして私が直々に姿を現したのは礼を言うためでもあるがお前の目が気になったからでもある」
「目……」
そういえばそれも気になっていたと圭は思い出した。
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