薫、怒りの決戦!2

 圭が一般人だったらちょっと危ないかもしれなかった。


「とりあえずここから逃げよう」


 一気にレベルが上がると具合が悪くなることもあるのだなと新発見もあるけれど、薫の能力そのものはいまだに不明なので戦力として数えられない。

 分かるステータスとして体力値が低いので防具もないと危険である。


「このまま引き返せばゲートもそう……うっ!」


「くっ、なんだ!?」


 ゲートを逃げ出して梅山たちが隠れている地下に一緒に隠れればいいと考えていた。

 そう思ってゲートの方に引き返そうとした瞬間叫び声が聞こえてきた。


 大地を揺るがすような咆哮に圭たちは思わず耳を塞いだ。


「な、デカっ!?」


 大きく木が揺れる音がして巨大なクオルカンティカートが降ってきた。

 他の個体よりもはるかに大きく、一目でこのゲートのボスだとみんなが思った。


『ボスクオルカンティカート


 古代の言葉で賢い愚か者という意味。

 人のなり損ないのような見た目をしたモンスターである。

 力もあり、知恵もあるモンスターで集団で行動することが多い。

 必ず群れのボスがいて、群れのボスには絶対的に服従している。

 長く生きたものでは魔法を使えるようになる個体もいる。

 二足歩行の弊害なのか腰が良くないものも見られる。


 ボスとして認められた個体。

 群れを率いる個体であり、ボスの周りにメスが集まってハーレムを作る。

 ボスとハーレムのメスで子供を成していくためにボスは強い性欲を持っている。


 魔石は普通のやつよりちょっとマシな程度。なんだか性欲の味がする気がする』


「ボスだ! 薫君下がって!」


 ボスクオルカンティカートが薫を見て再び怒っているかのような声を上げた。

 薫が逃げたことを怒っているのかもしれない。


「こっちこい! ……なっ!」


 カレンが魔力を放ってボスクオルカンティカートを引きつけようとした。

 しかしボスクオルカンティカートはカレンの方に向かうことなく薫の方に走り出す。


「行かせるか!」


 圭が素早く薫の前に飛び出していく。


「薫に手は出させないぞ!」


 振り下ろされたボスクオルカンティカートの拳を受け流しつつかわして反撃で切りつける。


「何を怒ってるのか知らないけどこっちだってお前らのせいで疲れてるんだよぅ!」


 大きな水の玉がボスクオルカンティカートにぶつかって吹き飛ぶ。

 圭たちだっけ嵐の中薫を追いかけてきた。


 モンスターに対して怒りを覚えているのだ。


「みんな集まるんだ! 薫君を守ろう!」


 カレンの様子を見て挑発が効かないと察した。

 圭たちは薫を囲むように集まった。


 普通のクオルカンティカートでも挑発が効きにくい個体はいたのでボスにまでなるとそうしたことに耐性があるのかもしれない。


「あんまり効いてなさそうだね」


「とりあえず突き飛ばしただけだからねぇ」


 ボスクオルカンティカートは立ち上がり、充血した怒りの目を圭たちに向ける。


「……気味が悪いな」


 気づけば周りの木々の上にクオルカンティカートがいる。

 しかし降りてきて戦うこともなく上から視線を投げかけて囃し立てるように声を上げている。


 まるで圭たちとボスクオルカンティカートの戦いを見物しているよう。

 妙な居心地の悪さを感じずにいられない。


 ボスクオルカンティカートが圭たちに向かって走り出す。


「ウッ!」


 流石に正面にいると無視はしない。

 一歩前に出たカレンに対して拳を振り下ろし、カレンは盾でそれを受けた。


 盾で受けたのに全身が砕けてしまそうな衝撃に顔を歪めるカレン。

 防げないことはないが一発ずつがギリギリそうである。


「はっ!」


「やっ!」


 カレンが攻撃を防いでくれて作った隙をついて圭と波瑠がボスクオルカンティカートの腕を切りつける。

 硬いと思った。


 毛そのものもゴワゴワとした硬めの質感なのであるがそれよりも肉質が硬い。

 茶けた毛の下には圧縮されたようなギチギチの筋肉があって剣が深く入らない。


「あぶね!」


 それでも多少の傷はついた。

 ボスクオルカンティカートが腕を振り回して圭と波瑠は下がって回避する。


「食らえ!」


 夜滝が水の槍を放つとボスクオルカンティカートは防ぐこともなく受けた。


「かなり防御力が高いな」


 全身に水の槍が突き刺さったように見えたのだがどれも浅い。

 グッと体を縮こめたボスクオルカンティカートが一気に胸を張ると水の槍が吹き飛んでしまう。


 他のクオルカンティカートたちが戦いに参加しない間にボスクオルカンティカートを倒してしまいたい。

 攻撃の動作が大きいので回避はできるが当たれば終わりのような攻撃が続く。


 圭たちも隙をついて反撃するけれど致命傷になりそうなダメージは与えられない。


「ぐっ……ゔっ!?」


 ボスクオルカンティカートは考えた。

 カレンが邪魔であると。


 薫の前に立って自分を邪魔してくる存在であるとカレンのことを見たボスクオルカンティカートはカレンに攻撃を集中させた。

 1回、2回と何度も拳を振り下ろす。


 受け流して対応しようとしていたカレンだが何度も連続して攻撃されると防ぐことが厳しくなってくる。

 圭が注意を逸らそうとボスクオルカンティカートを切りつけるがそれすらも無視してひたすらにカレンを執拗に狙う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る