薫、怒りの決戦!1

 一応本当に薫かどうか真実の目で確かめてみたけれど正真正銘の薫だった。

 薫に事情を聞いてみるとなぜか助けてくれたクオルカンティカートがいたと言うのである。


 圭たちにも理由は不明であるが、とりあえず薫を見つけることができた。

 上半身の服は破かれて裸になっているけれど縛られていた手首の他に外傷もない。


 しかし薫はよほど怖かったのか圭にしがみついている。


「メスだった……ということは嫉妬かな?」


 知能が高いモンスターということはある程度人の思考にも近いものがあるかもしれない。

 オスは薫を逃がすつもりがなかったのにメスだも思われる個体が薫を逃した。


 新たなメスに嫉妬してオスを奪われないようにした可能性があると夜滝は考えた。


「そんなことある?」


「さあね。モンスターの気持ちなんて分からないけれど考えが違うものがいそうなのは確かだねぇ」


 いささか思考が飛躍しすぎたかもしれないとは思うけれど特に薫を囮にするような感じもなければ逃げたのに追いかけてきているような気配もない。

 モンスターがただの好意で薫を逃すはずもない。


 何かの理由があるのは間違いないはずなのである。

 殺さずに逃すというところにいざという時に責任も逃れようとする小賢しさを感じる。


「何はともあれ無事でよかった。ゲートを閉じるのは後回しにして外に出ようか」


 薫を連れたまま戦うのは危険だ。

 見つけられたのならこのままゲートから脱出して他に助けを求めた方が安全だ。


「こいつ!」


 腕を切り裂いたままトドメを刺していなかったクオルカンティカートが起き上がろうとしてカレンが盾で殴りつけた。


「カレン、待ってくれ!」


「ん、なんだよ?」


 メイスを振り上げてトドメを刺そうとしたカレンを圭が止めた。

 どうして止めるんだとカレンが不思議そうに圭を見る。


「薫君」


「な、何ですか?」


 ゲートの中が寒冷地なこともありうる。

 そのために持ってきていた上着を薫には渡した。


「覚醒者になりたいって言っていたよな?」


「あ、はい……」


「覚醒者にならないか?」


「ど、どういうことですか?」


 これはチャンスじゃないかと圭は思った。

 弱って動けないモンスターと覚醒者になりたい神話級の才能の持ち主。


 モンスターを倒して覚醒するのにちょうどいい環境である。


「俺を信じてくれるか?」


「け、圭さんがいうなら信じます」


「じゃあこれであいつを倒すんだ」


 圭は自分の剣を薫に渡した。

 未覚醒の薫からみると遥かに格上な相手であるが、出血も酷くて息も絶え絶えになっている。


 放っておいてもそのまま死んでしまいそうなのでトドメを刺すぐらいなら出来るだろう。


「出来るか?」


「ほ、本当にこれで覚醒するんですか?」


 圭を信じると言ったものの、少しばかり詐欺の手口みたいであると薫は思った。

 いざモンスターを前にしてみると恐怖で手が震え、剣は重たくて落としてしまいそうになる。


 薫が圭を見ると、圭は自信がありそうな目をしてうなずいた。

 薫に説明するのはなかなか難しいが圭の真実の目には薫が覚醒者としての才能があることが見えている。


「早くしないとこいつ死んじまうぞ」


「わ、わかりました! 行きます!」


 大きく深呼吸して薫が剣を振り上げた。

 かなりのへっぴり腰であるけれど初心者ならしょうがない。


「え、ええい!」

 

 助けるを求めるようなクオルカンティカートと目があった。

 しかし薫はそれを振り切るように目をつぶって剣を振り下ろした。


 手に伝わってくる感覚は初めてで薫は困惑した。

 見事に真っ直ぐに振り下ろされた剣はクオルカンティカートの頭に突き刺さった。


 あまり防御として硬くないモンスターでよかったと思う。


「うっ! うえええっ!」


 どうだろうかと思った瞬間薫が吐いてしまった。


「薫君! 大丈夫かい?」


「す、すびません……なんだか急に眩暈がして……」


 初めてのことに気持ち悪くなったのかと思ったらそうではなさそうだった。


『バーンスタイン薫

 レベル10

 総合ランクG

 筋力F(伝説)

 体力G(無才)

 速度G(無才)

 魔力E(神話)

 幸運F(英雄)

 スキル:慈愛の女神の祝福

 才能:ユーシャナの再臨』


 真実の目で見てみると薫のレベルが一気に上がっていた。

 薫の等級からするとクオルカンティカートが格上であり、トドメまで刺したことから一気にレベルが上がったのである。


 もしかしたら一気にレベルが上がったために薫の体に不調が起こったのかもしれない。

 吐き気が起こったのも一瞬で圭が背中をさすっていてあげるとすぐに顔色が良くなってきた。


「これで僕、覚醒したんですか?」


「ああ、そうだ。体に力が溢れてくる感じはしないか?」


「言われてみれば……」


 頭がクラクラとした感じがしていて分からなかったが落ち着いてくると体の中に不思議な力が溢れていることに気がついた。


「僕……覚醒者になったんですね」


「うん」


「圭さん!」


「おっと……」


 薫は感極まって圭に抱きついた。


「ありがとうございます!」


「か、薫君……覚醒して力強くなってるから……」


 まだF級とはいえ覚醒した人の力は思っているよりも強い。

 まだ覚醒したばかりの薫は力の加減も分からず圭を抱きしめたので圭は苦しそうな表情を浮かべた。

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