小問題、大問題3

 別の係員が来て圭は検査に連れて行かれた。


「もしかしてお疑いですか?」


「……欧州連盟の大使までそうだったのだぞ? 疑うなと言う方が難しいだろう」


 大きな事件が続いている。

 それらの事件は圭が引き起こしたものではないが確実な安全のために圭の正体を少し疑っている。


 圭が何か悪いことをするわけがないと薫も少し驚いた顔をする。


「ですが村雨さんは……!」


「君がそうして人を庇うのは珍しいな」


「そりゃあ色々と手伝ってくれましたし……」


「どの道検査すれば分かるはずだ」


「まさか……あれ、完成したんですか?」


「そうだ。だから検査さえ素直に受けてくれるなら問題はない」


「……分かりました」


 少し不満そうな顔をする薫。


「ただあんまり雑に扱うと今後大海ギルドが協力してくれなくなりますよ」


「大海ギルドが?」


「彼、上杉かなみのお気に入りなんですよ」


「上杉ギルドマスターの? ……だから普段あまり動かない大海ギルドが協力的なのね」


「そうです」


「なら余計に疑いを晴らさないとね」


 ーーーーー


 覚醒者協会の職員に案内された圭は覚醒者等級検査を受けることになった。

 昔は色々やった上でいくつかのデータは職員の目視によって記録されたりする振り幅のある検査だった。


 しかし今は検査も簡単。

 カプセルのようなものに圭は入る。


 このカプセルはアメリカの政府が開発した覚醒者の能力を計測する機械である。


「少しピリッとしますよ〜」


 カプセルが閉じて耳元のスピーカーから職員の声がする。

 カプセルが起動した全身に電気が走ったような痛みが一瞬だけあって圭は少し顔をしかめた。


 こうして刺激を与えることで体の反応を見て能力を測定するらしい。


「はーい、終わりでーす」


 1分にも満たずで検査は終わる。


「次はこちらです」


 これで終わりだと思ったら隣の部屋に通された。

 そこにあったのは血圧計のような腕を通せるようになっている機械であった。


「これはなんの検査ですか?」


「最新の検査でより詳細に能力が分かるんです」


「そうなんですか」


 最初に検査を受けた時にはこんなものはなかった。

 けれど日々技術は進化している。


 これまでとは違う技術が用いられることや既存の技術が進んで発展することもある。

 何か別のものを測定する機械なんだろう。


 覚醒者協会がやっていることだし害はないはずだと圭はすんなりとその機械に手を通した。


「それでは検査始めますね」


 職員が機械を操作すると通した腕がぽわっと温かくなる。

 嫌な感じは一切なくて心地良いくらい。


「はい、ありがとうございます」


 温かな感じの検査も30秒ほどで終わる。


「それでは外でお待ちください」


 検査室の前の廊下に並べられたイスに座って圭は結果を待つ。

 他にも検査の結果待ちの人たちも何人かいて、次々と呼ばれていく。


 圭も呼ばれて部屋に入る。


「あれ、伊丹さん」


 部屋に入ると薫と綾瀬がいた。


「このようなことにお付き合いくださいましてありがとうございます」


 少し申し訳なさそうな顔をして薫が頭を下げた。


「いえ、ちょっと自分でも検査受けてみたいなとは思っていたので」


 真実の目で能力はわかっている。

 総合ランクと覚醒者等級に一つ差があることも経験から分かっている。


 しかし成長した圭が本当に検査で現れるほど強くなっているのか知りたくもあった。

 今の能力値ならば覚醒者等級ではE級相当になるはずである。


 E級なら運が良く良いギルドに入れればどうにか食べていけるぐらいにはなる。


「それで検査結果なのですが村雨さんはE級覚醒者となります」


「おっ、本当ですか!」


 分かっていたとしても嬉しい。

 G級だった自分がE級になったということに圭は笑顔を浮かべた。


「やはり村雨さんは再覚醒者ということになりますね」


「それは……嬉しいですね」


 やはり覚醒者等級も予想通り。

 圭が考えていた総合ランクと覚醒者等級の関係性は今のところ間違いないようである。


 そしてちゃんと強くなってもいる。


「なので新しく身分証を作り直しました」


「ありがとうございます」


「変にお疑いして申し訳ありません。差し支えなければいつ再覚醒したかなど分かりますか?」


 圭が覚醒者証を受け取ると綾瀬も頭を下げた。


「うーん……ちょっといつ再覚醒したかは……どちらかといえば少しずつ強くなったような……」


 再覚醒といえば再覚醒なのかもしれないけれど通常のものとは違う。

 モンスターを倒してレベルを上げて強くなりましたとはまだ説明できない。


「そうですか……」


「色々死にかけたのでそうしたことがきっかけかもしれません」


 圭は乾いた笑いを浮かべて頭をかく。

 一般に再覚醒というと危機的状況に陥ったりしたら起こることがあると言われているのでそんな感じで言葉をぼかしておく。


「もし何かきっかけなど思い出しましたらご連絡ください」


 圭に怪しいところはない。

 ギルドの方も書類を精査して後日申請に対する返事の書類が届くということで圭は帰ってもいいことになった。


「それでは失礼します」


 無事申請も終わり、ついでに覚醒者等級検査も受けられた。

 圭は機嫌が良いぐらいの感じで部屋を出て行った。


「それで悪魔検査はどうでしたか?」


 圭が見たことない二つ目の検査。

 それは相手が悪魔から力を受け取った人かどうか見分けるための検査であった。


 相手が悪魔から力を受け取っているかどうか機械から受けた刺激の反応によって分かるのである。

 悪魔教の勢力拡大が進んでいる欧州連盟で悪魔教の覚醒者を探し出すために作り出されたものであった。


「悪魔の力の反応はなかったわね」


「そうでしょう」


「……悪かったわね」


「私が言うのもなんですがあの人良い人ですよ。勇気もありますし、人を助けようとする気概もあります。悪魔教なんかじゃ決してありません」


「そうね。じゃあやっぱヴェルター襲撃犯の片岡とは関係はなさそうね……」



ーーー第三章完ーーー

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