救急車で運ばれて
覚醒者協会の要請を受けてヴァルキリーギルドが支援に乗り出してくれた。
ヴァルキリーギルドは5大ギルドではないが覚醒者ギルドの中でも有名なギルドである。
なぜならそのメンバーは全員女性なのである。
それでいながらギルドとしても強くて人気も高い。
「あれがヴァルキリーギルド……」
「何を見ているんだい?」
「いでで……」
離れたところで治療を受けていた圭はヴァルキリーギルドの覚醒者を見ていて夜滝に頬をつねられた。
あんな戦いの後なのに呑気なものだと夜滝は深いため息をつく。
美人揃いだから見ていた。
ということは決してない。
圭はヴァルキリーギルドとも関わりがある。
とても薄く、ないのとほとんど同然ではあるが圭がヘルカトにゲートの中に放り込まれて死にかけていた時に圭を見つけて助けてくれたのがヴァルキリーギルドであった。
後日手紙をしたためて覚醒者協会経由で送りはしたのだけど直接ヴァルキリーギルドを見たことはなかった。
ヴァルキリーギルドも忙しいだろうし、なんせ男性嫌いな人も多いと聞いたので直接会うこともはばかられたのだ。
どの人が助けてくれたなんてないだろうけれど助けてくれた人たちなので見てしまっていた。
下心ではなくありがとうございますという感謝の気持ちを持ってのことなのだ。
「村雨さんも……お疲れ様でした」
「伊丹さん、もう大丈夫なんですか?」
「……休んではいられませんよ」
一足先に治療を受けた薫は忙しく動いていた。
警察にも協力を仰ぎ逮捕した覚醒者たちを移送したり、まだ生きているケガ人を治療させたりしなければならずやる事は非常に多い。
嶋崎のように悪魔に操られて暴れた覚醒者が多くいたために死傷者が多く出てしまった。
黒月会とそれ以外の悪魔教の人も分けなきゃならないので大変そうである。
これだけ多くの人が動いているのだから当然マスコミもその動きを嗅ぎつける。
屋敷から離れたところには規制線が張られて騒がしくもなってきていた。
「改めて後ほどお礼はしますが今回はご協力ありがとうございました。
このままここにいてはマスコミに撮られてしまうかもしれませんので検査のためにも救急車で先に病院にお送りします」
「分かりました」
「みなさんもお車壊れてしまったようなので村雨さんとご一緒に」
激しい戦いの後である上に悪魔の力でおかしくなった人たちも近くにいた。
念のために詳細な検査も必要であることになって圭たちは救急車で先にこの場を離れることになった。
「……それで何があったんだ?」
口火を切ったのはカレンだった。
夜滝と波瑠も気になっていたことで3人の視線が圭に向く。
「ちゃんと全部話すよ」
信頼できる仲間たちだ。
たとえ後で薫に怒られようとも全てを話す。
まあ怒られることもないだろうとは思っている。
圭はかなみの妹である朱里を助けたことで黒月会への潜入をお願いされた。
引き受けるかどうか迷った圭だったがそのタイミングで古い友人が黒月会のせいで死んだことを知った。
だから圭は黒月会への潜入を引き受けた。
「そんなことが……」
「蓮っていうのはあの?」
「そう……」
夜滝も蓮のことは知っていた。
友人関係ではなかったが圭と一緒にいるところにあったことがある。
人が良さそうで死んだだなんて信じられないぐらいである。
「休みの度に出かけてたのも黒月会に潜入するためだったんだ。
みんなが疑ってるのは分かってたけど危険なことには巻き込めなくて」
「えいっ」
「いてっ」
「今回は許すけどさ……またこんなことあるなら言ってほしい」
ポコンと圭の肩を殴った波瑠はすねたような顔をしていた。
もう終わったこと。
圭がどれだけ悩んでそう判断したのかはみんなにも分かる。
優しい圭のことだから言えなかったのだろうと思うのだけどやっぱり言って欲しかった。
「ごめんって……でも今回は蓮の、俺の個人的な復讐の意味もあったから」
蓮のことがなければ圭は今回のお願いを断っていたかもしれない。
蓮の復讐のため。
そうした意味合いも大きくて、どうしても個人的な感情で動いていることもあったので言えなかったのだ。
「……それで復讐は果たせたのかい?」
「……分かんない。でも黒月会は大きなダメージを受けた。今後被害に遭う人は多分すごく減ると思う」
起きた悲劇は変えられない。
でも今後起こるかもしれない悲劇は変えられるかもしれない。
黒月会は今回のことで壊滅的なダメージを受けたはずである。
蓮や、あるいは残された人たちのような悲しみが黒月会のせいで生み出されることはないはずだと圭は思う。
「みんな……来てくれてありがとな」
今日の出来事は1人だったら乗り越えられなかった。
夜滝と波瑠とカレンが来てくれて助かった。
「今度からは絶対に言うよ……まあこんなこと2度とないと思うけどね」
「にしてもさぁ?」
「まだなんかあるか?」
「あの上杉かなみって人……圭さんと距離近くない?」
「えっ……そ、そうかな?」
「そうだよ! けいくーんって呼んじゃって!」
「そう言えばそうだねぇ……」
「どういう関係なんだ?」
「どういう関係と……言われても」
圭自身かなみとどのような関係なのか表現するのが難しいと引きつった顔をする。
ここまでにした話であれば単なる協力者であるがかなみは圭のことを名前で呼んでなんだか親しげな態度を取っている。
「き、気さくな人なんだよ……」
「ふぅーん?」
「へぇー?」
「ホントかぁ?」
多分結構気に入ってはくれている。
けれどそれを正直に言うと角が立ちそうでなんとなく言葉を濁すしかなかった圭だった。
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