酷い人たち2

 おそらく同等級の覚醒者を比べた時に夜滝はトップだと言い切ってもいい。


「ふうぅむ」


「どうかしたか、爺さん?」


「いや、本当に強くなってきているなと思ってな」


 和輝は感心したように呟いた。

 圭からレベルがあって能力が強くなることは聞いていた。


 実際圭たちはつよくなってきているがそれが戦い方に慣れてきたことによるものなのかは判断がしにくかった。

 けれど夜滝の変化は目に見えて分かりやすい。


 よくよく全体を見てみると戦い方に慣れただけじゃなく少しずつみんなが強くなっているのだと改めて感じた。


「覚醒者は強くなれる……」


 世界の誰も知らない新しい発見。

 もしこのことを早くから知っていたなら何かが変わっただろうかと和輝は腕を組んで考える。

 

 今でこそ比較的平和で安定した世の中であるが塔やゲートが出始めた時には世の中は混乱を極めていた。

 混乱した世界で一般人はもちろん低級覚醒者も多くが犠牲になった。


 あの頃から覚醒者が強くなれることが分かっていて育てていれば、と詮ないことを考えてしまい和輝は頭を振って考えを追いやった。


「覚醒者を見抜く目か」


 圭の能力は何かが尖っているものではなく平均的。

 戦いにおいては悪くないが生き残りにくくもある。


 だが唯一無二の能力の真実の目を持っていた。


「これから先、どうなるかだな」


 もしかしたらこのまま人を集めていけば圭はとんでもない存在になるかもしれない。

 才能ある人をいち早く見抜いて引き入れることができる能力があるというのは今後の世界に大きな影響を及ぼす可能性がある。


 不思議と圭が才能を見抜いた夜滝も波瑠もカレンも圭を慕っている。

 圭に男気があることも分かっているがそれだけではない惹かれるものがある。


 和輝すらも一緒にいると圭についていきたいと思わせられる時がある。

 このようなところも圭の能力なのかもしれない。


 圭を慕い、才能ある覚醒者が集まってくる。

 そうなるとそのうち圭は覚醒者を導く王となるかもしれない。


「……考えすぎか」


 カレンのことを考えればこれ以上人が増えても困る。

 今のままでもみんながレベルアップしていけば相当強い覚醒者チームになれる予感はしている。


「きゃああっー!」


 3匹のブルーアイズモンキーの群れを倒した圭たちの耳に悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ?」


「あっちの方からだよ」


「……みんな行ってみよう」


 危険にあまり首を突っ込むのは良くないが放っても置けない。

 圭たちは悲鳴が聞こえた方に向かった。


 時にモンスターの討伐に失敗することもある。

 相手のモンスターだってただやられるだけではないので変則的なことも起こりうる。


 なのでこの悲鳴だって厄介な問題とは限らない。


「何をしている!」


 しかし時には厄介な問題であることもあるのだ。

 和輝が声を荒らげた。


 悲鳴の方に行ってみると人が倒れていた。

 男が4人ほどと血にまみれて倒れた人が2人、そして怯えた表情を浮かべて地面に座り込む女性が1人。


「なんだ? ……ちっ、こんなところ人がいたのか」


「お前らPKだな?」


 PKとはプレイヤーキラーの略である。

 覚醒者が覚醒者を殺すことがあり、その犯人のことをPKと呼ぶのである。

 

 元々ゲーム用語であったものである。

 けれど覚醒者が他の覚醒者を殺す理由が装備を奪ったりする目的であることが多くなってきたことから誰かがゲームになぞらえて言い出した。


 いつの間にか覚醒者を狙って殺す覚醒者をPKと言うようになったのである。

 リウ・カイもある種のPKである。


 今は周りにモンスターの死体などはない。

 なのに人が血を流して倒れている。


 女性は怯えた表情で男たちを見上げている。

 倒れた他の覚醒者を助けようとしないとか男たちの武器が血で濡れているとか細かい点もおかしい。


「ふっ、だったらどうした? ……ふーん、良い女つれてんな」


 男は夜滝たちをみるといやらしく笑って唇を舐めた。


「1人じゃたりねぇと思ってたんだ。どの道目撃者は逃しておけねぇ」


 男の頭の中で計算が始まる。

 圭たちの人数は多い。


 けれど自由狩猟特別区域、しかもこんなところにいるならば等級は高々知れている。

 年寄りとまだガキにも見える女もいる。


 全く問題なく倒せる。

 そう男は思った。


「女は殺すな! 男は殺して装備回収するぞ!」


 4人の男たちが襲いかかってくる。


「優斗、下がっておれ」


「でも……」


「いいから」


 危険な状況。

 それにもかかわらず和輝は冷静である。


 モンスターにも怯えて戦えない優斗が前に出るだけ邪魔になると判断して下がらせた。


「オラっ!」


 先頭を走る大柄の男が手に持ったハンマーをカレンの盾に向かって振り下ろした。

 カレンも体格的には大柄でも女性は女性。


 正面から攻撃を受けて耐えられるはずがないと大柄の男は思っていた。


「えっ……」


「舐めんな!」


 カレンはハンマーの衝撃を受け切った。

 盾はヘコみもせず逆にハンマーを持つ手が痺れるほどである。


 受けられた、そう理解する前に頭に強い衝撃を受けた。

 大柄の男の攻撃を受け切ったカレンが素早くメイスで大柄の男の頭を殴りつけた。

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