フィールドワークもするのさ2
「ほら、もうちょっとだから」
「うぅー! 助手君おんぶだ!」
「俺荷物背負ってるの見えない?」
「荷物なんかより私の方が大事だろ?」
「だからあと少しだから頑張ってって」
「しかもこれ帰りもやるんだろう? もう死んでしまうよ!」
なんやかんやとありながら山中にあるゲートまでたどり着いた。
「こちらのゲートにはF級モンスターである叫ぶイノシシが出てきます。ボスモンスターは討伐せず、予想されるゲートブレイクまではあと10日ほどあります」
ゲートにもいくつか種類がある。
ボスモンスターを倒すと消えてしまうインスタントゲートとボスモンスターを倒しても消えず中がリセットされるダンジョンゲートが代表的だ。
ほとんどのゲートがボスモンスターを倒せば消えるインスタントゲートであるのだが逆を言えばボスモンスターを倒さなきゃ消さないということもできる。
人類もただゲートを攻略するだけではなくゲートを調査して、その付き合い方も変化を遂げてきた。
現れたゲートを片っ端から攻略して消していくのではなく利用し始めた。
ゲートは中からモンスターが飛び出してくるゲートブレイクと呼ばれる現象までに時間の猶予がある。
その時間の中であればモンスターは外に出てこないので攻略したい人を募ってゲートの攻略権を売ることを政府が始めた。
攻略権があれば予想されるゲートブレイクの3日前までは自由に出入りしてゲートを攻略することができるのだ。
「……聞いておられますか?」
「むぐ……聞いているさ。もう一口」
「はいはい……」
ヘロヘロの状態でゲートの中に入るのは危険だ。
なので体力が回復するまで休憩する。
毒の実験をするのに1日ではなく2、3日滞在するつもりで捕獲チームはテントも立てている。
そんな中で圭は夜滝にお弁当を食べさせていた。
動けないから食べさせてほしいとわがままを言うのでしょうがなくそうしている。
捕獲チームのみんなもいるので恥ずかしいけど、助手は右腕たる働きをするものだから右腕らしい働きをするべきだと主張する夜滝がうるさくて食べさせることにした。
右腕というのは大体比喩表現であるのに本当の右腕的に料理を食べさせることになるとは思いもしなかった。
ニコニコと圭に食べさせてもらいながら夜滝はゲートに関する資料を再度読み込む。
「モンスターの等級はFなので捕獲チームでも問題はないと思います。魔法で拘束いたしますのでそのまま槍を刺していただいて大丈夫です」
ゲートの説明してくれる小橋は圭と夜滝の様子に苦笑いしている。
とりあえず泊まれるだけの準備をして何本か持ってきた槍の最終チェックをしてゲートに入ることになった。
「おぉ……」
「ゲートに入るのは初めてかい?」
「あ、ああ」
「なんとも奇妙な感覚だろう?」
「うん……」
何かの膜を通ったような不思議な感覚があってゲートの中に入った。
圭は弱いのでゲートでの討伐、いわゆるレイドに参加したことがなかった。
荷物持ちなんていう選択肢もあったけれど危険度や安定を天秤にかけて塔1階で運転手になることを選んだ。
ヘルカトにゲートに投げ入れられた時はそんなこと気にしていられる余裕などなかった。
だからまともにゲートに入るのは初めてと言っていい。
ゲートの中は広い平原のようになっていた。
「通常ゲート周りにモンスターは現れないのでもう少し奥に行きましょう」
さっきまで森の中だったのに広がる平原に感動する。
「……なんか声がするね」
「叫ぶイノシシは頻繁に鳴き声をあげているので叫ぶイノシシと名付けられました」
ずいぶんストレートな名付け方だけどモンスターも種類が多い。
学術的に調べてなんてことをするよりも特徴を分かりやすく名前をつけた方が今は都合が良かった。
叫ぶイノシシはその名の通り叫んでいる。
理由は知らないけれど良く鳴き声をあげていて見た目がイノシシのようであるので叫ぶイノシシと名付けられている。
「いました。2体、こちらにはまだ気がついていません」
双眼鏡で周りを確認していた小橋が叫ぶイノシシを発見した。
圭も双眼鏡を使って叫ぶイノシシを見てみる。
良く叫ぶという特徴以外はデカめのイノシシでしかない。
意外と肉も美味しいらしいのだけど今回は残念ながら毒の実験であるのでそちらは目的じゃない。
圭と夜滝に待っているように言って捕獲チームが前に出る。
各々武器を抜いて叫ぶイノシシに向かっていく。
「はっ!」
覚醒者の1人が魔法を空中に放つ。
打ち上げられた赤い炎。
叫ぶイノシシたちもそれに気がついて空を見上げた。
ぼんと派手に爆発をしたがそれが何かに被害を与えることはない。
しかし狙いは攻撃ではなく陽動で叫ぶイノシシの目を引ければよかった。
「スキル大地の束縛!」
別の覚醒者が地面に手をついた。
すると周りに木々もないのに太い木の根っこが地面から飛び出して来て叫ぶイノシシたちを捕らえた。
戦い始めてから短い間にあっさりと勝負がついてしまった。
捕まった叫ぶイノシシはけたたましく鳴いているが根っこの拘束から抜け出すことはできない。
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