捨てる神あれば5

 今回は助手であるので技術的な側面よりも信頼できる人を雇いたい。


「そんな時に君の顔が浮かんでね」


「俺の?」


「……知ってるだろう、私に友達少ないこと」


 ましてその中で信頼ができる人なんてほとんどいない。

 経歴的に信頼できる人を企業の方で選んでくれてもいいのだけど毎日顔を合わせることになる助手で今更新しく知らない人を側に置きたくもなかった。


「そのだね、良かったらなんだ。良かったら……私のことを助けてくれないかい?」


「夜滝ねぇ……」


「ちょうど仕事もないんだろ? タイミングだっていいし……君が側にいてくれると嬉しいし」


 ほんのりと頬を赤く染める夜滝。


「じゃあさ、仕事の内容教えてくれよ」


「本当かい!? 難しいことはないんだ。私の実験の手伝いをしてくれればいい。あとは晩御飯を作ってほしい!」


「……ば?」


「晩御飯。朝御飯も作ってくれると嬉しいねぇ」


「……夜滝ねぇ?」


「昼は食堂があるからいいんだ。だけど夜は遅くなることも多くて食堂は閉まってしまうし、朝から食堂で大量のご飯を食べるのは私でもいささか恥ずかしくてねぇ。圭が作ってくれる料理は好きだし毎日食べたいぐらいだ」


 それでは助手というよりシェフではないか。


「……一々こっちの家に来るの?」


「いや、圭がいいならRSIで借り上げている建物に住もうじゃないか。なんなら私と同じ部屋でもいいんだぞ」


「それは遠慮しておくよ」


 流石に良い年頃の女性の部屋に転がり込むのは気が引ける。

 小さい頃は半分一緒に住んでいるようなものだったけど圭も夜滝も良い大人なのだ。


 互いに特定のパートナーがいないとしても一定の節度は守らねばならない。


「…………君はずっと変わらないねぇ」


 割と分かりやすくアピールしたと夜滝は思っている。

 けれどそれが圭に通じたことはない。


 むしろ昔からこんな感じで核心には触れないけどアピールをしてきたせいで後一歩を悟ってもらえなくなってしまったのかもしれない。


「とりあえず引き受けてもらえたから良しとするかね」


 共にいる時間が長ければチャンスは自ずと訪れる。

 助手として働き、朝晩の食事時も一緒にいるとなればもうほとんど同棲ではないかと夜滝は考える。


「早速会社には連絡するけどいいかい?」


「ああ、こちらとしてもありがたいよ。ありがとう夜滝ねぇ」


「よろしくね、圭」


「よろしく、夜滝ねぇ」


 人生どん底だと思ったけど意外なところで救いの手があるものだ。


「ほら、まだお肉はあるよ?」


「夜滝ねぇも食べなよ」


「そうするかね」


 圭を雇えて夜滝はニコニコとしている。

 圭も1番の難局を乗り越えてホッと安堵したけれどほんのわずかに心の隅に心配なことは残っていた。


 真実の目やヘルカトの魔石のことを話そうかと悩んだがどこまで話していいかも分からなくて話せなかった。

 ヘルカトの魔石は打ち明けてもいいけどこの真実の目がどのようなものであるのか、夜滝に打ち明けるべきなのか迷って結局言い出せなかった。

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