第40話 virtuala新年会! 本日は無礼講、ぶっちゃけスペシャル! 司会:赤城クロノ

「はい、どーも。新年とともに謹慎が明けました、赤城クロノです。どうぞ本年も宜しくお願いします! 本日は、え〜、『virtuala新年会! 本日は無礼講、ぶっちゃけスペシャル!』と題しまして、virtuala公式チャンネルにて、全員集合しております。みなさん順番に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「地球のみなさん明けましておめでとう! 今日も元気に侵略中! バーチャル侵略者の宇宙ランなのだ! 今日は暴れちゃうのだ。イェーイ!」

「こんミキ〜。バーチャルイラストレーターのギンガミキで〜す。明けましておめでとうございます〜」

「こんゆんわ。今年もバーチャルでものを揺らしたい。揺れもの大好き天河ゆんだよ〜。クロノくん今年は燃えないでね〜」

「あ、次ボクか。明けましておめでとうございます、蒼川ハクトです。せ、先輩方に囲まれて緊張してまーす」


 なかなかに画面が賑やかな新年の初配信である。ゴタゴタしていて開設が遅れたvirtuala公式チャンネルにて、メンバーが一堂に会している。司会のクロノと、ハクト、モデレーターの私こと恋沼ひかるは事務所から、他のメンバーはそれぞれの自宅から参加している。


ランたそ激推し「あけおめ」

miroro「明けましておめでとう」

にんにん丸「あけおめ〜」

ytc9999「あけおめ」


 コメント欄も盛り上がっている。集まっているファンはそれぞれのファンや箱推しのリスナーたちである。


「本日の趣旨としましては、司会のオレ以外はお酒を飲みながら、無礼講でぶっちゃけ話をしようという会です。ハクトお酒飲めたの?」

「飲めまーす!」


miroro「お酒合法_φ(・_・」

はなたん「ハクトは呑める年齢」

闇月リズの推し活チャンネル「そういえばクロノくんは禁酒か笑」


「じゃあ飲む銘柄、教えていただきましょうか。代表?」


「ワタシはモエ・エ・シャンドン!」


ランたそ激推し「さすランwww」

tktk「景気良すぎ」

ありりん「いいねぇ〜」


「高級! さすが! ミキさんは?」


「私は日本酒〜」


ろぶすたぁ「ミキママ日本酒好きね」

ぷりんどん「日本酒のなに?」

ytc9999「日本酒すこ」


「いいですね! ゆんさんは?」


「わたしはウイスキー派だよ」


さんたそ「ウイスキーお好きでしょ」

大五郎「🥃」

ナイトウ「🥃」


「お、ここまで全員種類違いますが、ハクトは?」

「ボクはさっきそこで買ってもらったワイン〜」

「はーい。赤? 白?」

「赤」


 ちなみに私がスーパーで買ってきた3,000円のワインである。


「ハクトなのに白じゃないんかい! まあいっか。じゃあみなさん用意はいいですか? せーの、かんぱーい」

「カンパーイ」

「かんぱ〜い」

「かんぱーい」

「か、乾杯」


 見事にバラッバラなのは、リモートだからかvirtualaだからか。まあいっか。ちなみに公式チャンネルはまだ収益化ができていないので、投げ銭はなし。出演者は均等に、時間単位で出演料をもらっている。出演料の出どころは美宇のお財布。大赤字配信である。


 そんな世知辛い情報はさておき、クロノ以外が一杯目を飲んだところで、本日のお題一つめである。


「えー。本日のお題一つ目は、『一期生デビュー裏話! オーディションぶっちゃけ編!』です。大丈夫、これ?」


 ちなみに本日の流れをざっくり書いた台本を書いたのは、弊事務所代表にして宇宙ランの中の人、宝蔵寺美宇である。事務所代表、新年そうそうぶっこむなあ。


「聞くの怖いんですが誰からいきます? というかどういう流れで話します?」


 ワイプの面々が一斉に話し出す。


「ハイハーイ」

「は〜い」

「ハワイ〜」


 画面左端に映っているクロノが苦笑いになる。


「一度に話さないでくださーい。あとゆんさんハワイって何〜? まあいいや、代表からミキさん、ゆんさん、ハクトの順でいきましょう。代表、何かぶっちゃけ話ありますか?」


 正月衣装の宇宙ランがワイプの中で不敵に笑う。


「やっぱ一期生デビューの企画を主導してた旧マネちゃんがとんじゃったことかなー。あと暴露されまくりで五人デビューが二人デビューになって〜」

「ちょ、最初っからとばしますね!」


 開幕そうそう、事務所代表のぶっちゃけ話が、ぶっちゃけすぎるvirtuala新年会。


「もともと一期生の企画持ち込んできたの旧マネちゃんだったんだよ。ね、ミキママ?」

「そうね〜。旧マネは芸能関係の仕事してた人だから、私たち、彼のこと信頼しきってたもんね〜」


 私の前任者はそうとう有能とみられていたみたいだ。まあとんじゃったんだけど。


「オレらがやってるユニットやろうって言ってきたの旧マネだったんすか?」


 司会者クロノの質問がとぶ。


「そうそう。歌モノやるってなって、美少女Vtuberはレッドオーシャン化してるから、違う路線目指そうってことで、旧マネちゃんが前職でプロデュースしてたのに近い感じを目指したんだよ。旧マネちゃん、男女混合ダンスグループをプロデュースしてたから、男女混合ユニットはどうかなって。まあ女の子が辞めちゃったから結果的にキミたち二人になったし、ついでにもう一個のゲームユニットは解散になったけどね。それから、ゆんおじが、女の子ばっかで肩身狭いから男子歓迎って言ってたし」

「まあ、まさか女の子いなくなって男二人デビューになるとは予想してなかったけどね……」


 ワイプの金髪美女が苦笑いを浮かべる。これまで感情交差点の二人とはあまり接点のなかった、3Dモデラーとしても活躍するVtuberである。見た目はメイド風ロリータ服を着たお姉さんだが、いわゆるバ美肉、バーチャル美少女受肉といわれる美少女の姿で活動する、本人いわく『おじさん』である。


 先がピンクの金髪に垂れたウサギの耳。右目がピンク、左目が水色。ベビーピンクのギンガムチェックのロリータ服で、赤いメガネがチャームポイント。見た目の特徴を羅列しただけでもわかるように、こだわりが詰まった見た目なのは、もともと自分でアバターを作っていたセルフ受肉勢だったから。


 まあ細かいことはおいといて、美少女から低音イケボが聞こえることになんの違和感も覚えないの、Vtuber界隈あるあるかも。


「リスナーさんも色々混乱したと思いますけど、立ち上げメンバーの方々も混乱してたんですね」


 ハクトが的を射たことをいう。


「旧マネを肩書きでコロッと信用して、言われるがままに行動してたのはよくなかったね……。わたしたち世代は肩書きに弱いのがダメだね。それに助けられてきたわたしが言うのも違うかもしれないけど」


 画面の美女の笑顔が心なしか寂しげに見える。実はゆんさんは元々エリート銀行マンである。脱サラして好きなモデリングの仕事してバ美肉して、中年の星と称えられ……と一見して自由気ままな独身生活を謳歌しているかに見えても、裏ではいろいろ思うこともあったのかもしれない。


「あ〜。まあでも、結果オーライグーチョキパーって感じなんで」

「お前が言うな!」


 総ツッコミを食らうクロノ。派手に燃えたのに懲りないなぁ。


 Vtuberに限らないかもしれないけれど、この界隈は時が流れるのが本当に早い。感情交差点の二人はまだ、デビューから三ヶ月しか経っておらず、クロノに関しては半月ほど活動を休止していたので実働期間は二ヶ月半。それなのに色々と盛りだくさんだったこともあり、新人らしさは良くも悪くも無くなってきている。


「えっと、聞きづらいんすけど、オレたちのどういうところが採用にいたったとかきいていいすかね?」


 司会者赤城クロノ、話をそらしていく。しかし、企業採用に至るノウハウは、企業Vtuberになりたい人に需要があるので伸びる話題でもある。


 クロノの質問に対し、事務所代表にして人気筆頭、宇宙ランの回答はこちらだ。


「まず二人ともはっきり音楽って武器があるところがよかったかな。あと二人とも配信に慣れてないのに採用したのは、『virtualaだから輝けそう』と感じたから。うちの事務所じゃなくても良さそうって思ったら採用しないかな」

「コメント欄でいくつか似た質問があったんすけど、オーディション開催って銘打って志望者を集めなかったのはどうしてっすか? 自分で言うのも開き直ってるみたいでなんですが、オレみたいな不用意なこと言って燃える奴は避けられたんじゃないかなって」

「う〜ん。主導してた旧マネちゃんが、『原石を発掘したい』って言ってスカウト的なものにこだわってたってのが一番の理由だけど、他の理由はこういう企業Vになりたい! 配信者とはこういうものだ! って凝り固まってる人に面白みを見出せなかったのが大きいかな。ほら今はいわゆる御三家が天下獲ってるから、うちみたいな新興の事務所はついでに受けようって人が多いんだよ。なんとかさんみたいなVtuberになりたいですって言われても、そのポジションはなんとかさんだけで十分だよ……っていう。あと配信者として面白くてもバーチャルな見た目が顔を隠すアバターとしてしか機能しないなら、うちの事務所向きではないかなってね」


 今は企業Vと言えば御三家、といういわばバーチャルの江戸幕府時代。憧れの職業になっているのは良いことかもしれないが、尖った人は応募してこないのかもしれない。


「メタいこと言いますけど、オレらはアバターを超えられてるんですかね? 着ぐる……毛ガワでライブとかしてますけど」

「超えられたかは知らないけど、その見た目であることで引き出されてる側面はたくさんあると思うよ。メタいけど。ライブ良かったよ」


 事務所代表から褒められてしまった。いや、リアルやメッセージ上では結構言われてた褒め言葉ではあるけれど、画面の中の宇宙ランが、クロノに向かって話しているのを聞くのは、別種の感動がある。


 少々の脱線はあったものの、つつがなく進んでいるvirtuala新年会。にもかかわらず、私と司会のクロノはソワソワしている。なぜならばこの配信、最後に重大告知を控えているからである! タイムキープをしっかりしなければ、告知の時間がなくなってしまう。コメント欄は荒れていないので、私はそちらの方だけが気がかりだった。

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