第12話 デビューから一週間でまさかのBAN?!

 ハクトの前世がレヴァンティンというやらかし歌い手である、という事実無根の噂が残ったままではあるが、ハクトもクロノも収益化の申請を出せるラインまで、登録者数をかせぐことができた。あとは総再生時間である。


「再生時間が稼げる配信ってなんだろうなぁ」


 週に一回の兄ビルでのミーティングにて、みっくんがぼやいている。もうすぐデビューから一週間だ。


「長時間配信は人の出入りがあるから視聴回数を稼げるとは言われているけれど……」

「ユニットコラボは比較的長時間でしたけど、正直なところ同接がそんなに稼げていませんでしたよね……」


 大輝ひろきのいうユニットコラボとは、デビュー二日目に行ったゲームコラボのことである。ハクトの枠とクロノの枠をまたいで、合計四時間。配信初心者の二人にしては長かったのだが……。


「……やっぱり僕がゲーム下手すぎたのが問題ではないでしょうか」

「いやいや、今の時代にあれだけ下手くそっていうのはそれだけで個性だって!」

「みっくんフォローになってないよ」


 下手なのが視聴者離れにつながっているかどうかは別として、大輝のゲームスキルが高くないのは事実である。言うほどみっくんもうまくない。二人ともゲーム実況者出身ではないので、仕方がないことではあるのだが。どうも大輝はアクションゲー全体がダメそうなので、今後できるゲームも限られてくるかもしれない。


 ゲームが下手すぎてレヴァンティン疑惑が消えるのでは、とちょっと期待したのだが、レヴァンティンもゲーム下手だったらしく、そううまくはいかなかった。世知辛い。


「まあでも毎日配信続けてもらってるし、このままいけば来週には申請出せるんじゃないかな? 悲観しないで堅実にやってこうよ」


 うなずく二人。焦ってもしょうがないし、焦るほど伸び悩んでいるわけではない……と思う。むしろわりと順調なのではないだろうか。


「今日来てないけど、代表はなんか言ってた?」

「う〜ん。事務所の機材貸すからASMRやったら、だって。伸びるぞ! ってさ」

「それは代表だからでは?」

「正直私もそう思う」


 我が親友はVtuber『宇宙こすもラン』を銀盾まで伸ばした実績があり、彼氏バレで炎上したとはいえ人気Vtuberの一角である。経験からのアドバイスは貴重ではあるのだが、そのまま流用できるものばかりではない。


 宇宙ランはナチュラルな可愛い声が耳に優しいと人気である。普段の元気キャラとのギャップもあって、ASMR配信は人気コンテンツの一つだ。声の魅力という意味では二人も持っているけど、果たして。


「……僕やってみようかな、と」

「マジ?!」

「……無理にやらなくていいんだよ?」


 まさかの立候補に心配になってしまう。


「いや、ほら、企画してたNG無し質問コーナーができなさそうなので……わくが空いてるんですよ。深夜帯に配信しますけど、いいですか?」

「それはいいけど………」


 眼鏡の奥の瞳が暗い。確かに今NG無し質問コーナーをやったら荒らされそうではある。時間帯については、私がモデレーターをしている影響で、二人は配信時間が被らないようにしているので、すり合わせは必要である。学生の大輝と深夜のコンビニバイトをしているみっくんだと普段の生活からして時間帯が被っていないので、特に困ってはいないようだ。


「あ〜、じゃあ朝枠の方は俺がやろうかな。バイト終わっても起きてればいいだけだし」


 トントン拍子で今週の方針が決まった。




※※※




「それではご機嫌よう。おやすみなさい」


miroro「おやすみ」

詩月サラ「ご機嫌よ〜」

にんにん丸「ぽやしみ〜」


 大輝の様子からちょっと心配していたハクトのASMR配信だが、良い雰囲気で終えることができた。モデレーター権限でワードミュートをガチガチにした成果か、疑惑関連の荒らしもいなかったし、落ち着いた枠だったと思う。


 ASMRといっても恋人ロールプレイとか聞いていて気まずいものではなく、認知シャッフル睡眠法という、交互に関連のない単語を聞いていると眠くなることを利用したもので、健全な寝かしつけ配信だった。リラックス効果がありすぎて私まで眠くなったのは内緒だ。


 これはいいんじゃない? 伸びるんじゃない? と勝手にワクワクしたものの、眠すぎてパブサをする気力がなく、自宅から配信を見ていた私は、大輝にお疲れ様、とメッセージを送って寝てしまった。


 が、朝起きたら大変なことになっていたのである。


『チャンネルが消えて絵入』

『モイ仕分けありません』


 ユニットと私と代表が見れるようになっているチャットにて、大輝が動揺しすぎて誤字を連発している。モイ仕分けって何?


 なんと、ハクトのチャンネルが朝起きたらBANされているという非常事態発生である。


 状況を分析すると、どうやら昨日のASMR配信についてAIが不適切と判断したため、ガイドラインに違反しているとチャンネルが停止されているようだ。誤判断です! とメールを送っておく。


『何が違反していたんでしょうか?』


 という大輝の疑問はもっともである。その疑問には美宇はネット記事を貼り付けて


『これかも』


 と反応していた。ネット記事ぃ? とは思ったが確認すると、Vtuber界隈で誤BANが増えており、その原因はAIがアニメ調のイラストを問答無用で子どもと判断するから、というもの。要は昨日の配信を、『子どもにえっちなことさせてる! ガイドライン違反!』と判断されたということだ。ハクトの見た目はたしかに子どもっぽいが、内容は健全だったのに……。


 大輝凹んでるだろうな、と思っているそばから


『低評価ダンクと通報も影響してるかもね』


 と美宇がちをかけている。やめてさしあげて。やはり疑惑とそれにともなうアンチはどうにかしないといけないみたいだ。


『誤ペドBANってこと?』


 とみっくんがチャットでボケている。ヘドバンみたいにいうな。誰がうまいこと言えと! 笑いづらいボケをかますな! レヴァンティンの過去から言ってシャレにならないから、それ!

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