episode2
黒Tにデニムジーンズ。日焼けをしていない真っ白な青年。車の中は音楽をかけてる以外はずっと無音だ。
無論、私という幽霊に話しかけるはずもない。助手席奥に置いてある本がぽつんと置いてあるだけ。「秋の雨が止む時に……」と書いてある本は少しばかり埃をかぶっていた。どこかで見たことのある表紙。でも、思い出せなかった。
信号で止まった時、運転手の大学生はふとハンドルの横のボタンを2,3回連打する。どんどん曲が飛んでいく中で、特定の曲でそのボタンを留めた。曲風はロックだろうか。ドラムが激しく打ち付けられ、男性の悲痛な叫びが聞こえる。
『二度と戻れない。あの日みたさくら。君がきれいと笑ったあの花が。散らすピンク色に紛れて君は。どこか遠くに、のまれて消えた……。』
歌詞が印象的だった。なんだか、胸が痛かった。よほど、大切な人を失った人なんだろうか。運転手の大学生は表情一つも変えていなかった。
車の窓に映るのは、まるで壊死したサンゴ礁。短い街路樹を出てしまうとあちらこちらに頂を貫かんとビルが一つ二つ三つ……。そこにシルバーに統一された光景が私の知っている高知とは思えない。この近未来で殺風景な場所が夕陽を反射し、相も変わらず続いている自然への裏切りに宇宙の大先輩が人類に天誅を下すがごとく
大学生は輝きを魅せる日輪をサングラスでガン無視、黒いハンドルを灰色のハンドルグローブをつけて右に左へ傾ける。それにしてもクーラーが病院の中みたいに静かでとても涼しい。音楽も先のロック以外はそこまで激しいものはなかった。悲しみに打ちのめされている曲が多かった……。
また少し進んだ信号で車体を止めると懐かしそうにスマホを覗く。そこには焦げ茶のショートヘアーの少女と、ちょこっとやんちゃな性格が黒髪から現れる男子高校生が映っていた。しかもどっちも水着で。
——彼女さんかな?
背景は海。ショートヘアの少女はまるで霜のよう白くで、少しやせていた。でも、口元はちゃんと笑顔だった。男の方はもう、飛び切りの笑顔。対照的だが、どちらも笑顔という点同じだった。
大学生はそっと目を閉じる。少し、上向いて呆然とする。それはどこか遠くを見つめているようだった。
信号が青になっても、後ろの車のクラクションが鳴るまでずっと、大学生は動かなかった……。
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