第11話 対決
掃射! 弾け飛ぶコンピューター! ディスプレイ、機材にコード! スタスラフが絶叫しながらしゃがみ込む。他のテロリストたちも一斉に物陰に隠れた。人質たちの方から悲鳴が上がる。
大混乱だった。よし……よし! うまくいきそう……いや、うまくいきますように!
顔を上げて前を見る。コンピューターの上に置かれていた黒い箱。あれも綺麗に消し飛んでいる。床に目をやると銃弾を受けてズタズタになったそれが。よし……! 多分うまくいった!
しかし成功を確かめる術がない。もしうまくいったのなら、コレキヨが動いてくれるはずなのだが……。
この二十階に来る前。一階にいた時。
ハシバの死体をエレベーターから下ろし、私が中に乗り込んだ時のことを思い出してほしい。
私は自分より高い位置にいるコレキヨを見上げていた。そう、彼は私より高いところにいた。
エレベーターの中に段差はない。あるとしたら天井と床。そう、コレキヨはエレベーターの天井に乗り込んだのだ。そして私が二十階に着くと、コレキヨは必然二十一階に手が届くことになる。
コレキヨはそのまま二十一階に入り、そして吹き抜けの場所に出たのだ。後は……。
私が持ち込んだスマホはタイマーだった。コレキヨに訊いたのだ。「二十一階エレベーター乗り場から吹き抜けに行くのに何分かかるか?」コレキヨは「五分くらいだ」と答えた。余裕を持って十分、私はタイマーをセットした。そして二十階、あいつらの前に姿を現して……十分間、稼いだ。大変だった。大変だったけど……作戦はうまくいった! タイマーが振動するとあのペが反応した。それを合図に私はしゃがみ込み……後はコレキヨが二十一階の吹き抜けから、私のいる二十階の吹き抜け目掛けて撃ちまくる、っていう寸法。……近くにある妨害電波発生装置を破壊するため。うまくいけば電波が使える……そうでなくても相手のコンピューターを壊せる!
もし妨害電波発生装置が壊せたのならコレキヨがそのまま警察に連絡する。あいつだって現代人だ。自分用のスマホくらい持ってる。後は連絡するだけ……頼む警察! 駆けつけてくれ……!
誰かが雄叫びを上げた。そのまま銃声が続く。天井からだろうか。建材やらコンクリートの破片やらが落ちてくる。テロリストどもがコレキヨに応戦したのだ。私はすぐさま低姿勢のまま、エレベーターに向かって走り出す。
「…………!」
韓国語。誰かが叫ぶ。きっと私が逃げ出した旨味方に伝えたのだろう。私は必死に走る。
すぐそばで床が弾けた。何かが……間違いなく銃弾が、空を切り裂き私をかすめる。撃ってきてる。撃ってきてる! だが私は足を止めなかった。必死に走った。
「ああっ!」
声が出たのは自分でもびっくりするくらい唐突だった。激痛。一瞬膝から崩れ落ちる。だけど何とか体勢を立て直し、私は走った。そうして血溜まりのあるエレベーターに滑り込むと、二十一階を押して「閉める」ボタンを連打した。
ドアの向こう。
男たちが銃を持ったままこっちに突進してきていた。何人かはまだ頭上のコレキヨとやりあってる。拳銃を持った男たちが迫ってくる。ドア早く閉まって! エレベーターのドアが閉まることを神様に祈るのなんてこれが最初で最後だろう。
そうしてエレベーターがぽん、という音を立てて閉まると、何発かの銃弾が鉄のドアを貫通して私の後ろの壁に叩き込まれた。だが箱はすぐさま二十一階に上り、そして止まった。私は自分の太腿を見た。
痛みは遅れてやってきた。
「あああああああっ!」
声が出る。
敵が放ってきた銃弾は、どうも私の太腿の外側をかすめたらしい。
肉が大きく……親指三本分以上、ばっくり抉れて血が溢れている。痛い……痛い! ハシバの血があることも忘れて私はのたうちまわった。そうこうしているうちにエレベーターはワンフロア上がった。
くっそおおおおお無傷は無理だと思っていだこれは痛手だ。移動しにくくなりやがった。私は足を引きずりながらコレキヨがいるはずの吹き抜けを目指す。二十一階はドーナツ型の構造をしていた。ドーナツの穴の内側がガラス張りの廊下。そんな回廊をしばらく進むと、ガラスが大きく割れている場所に銃の先っぽが覗いていた。そこに行くまでに二カ所のドア。だがカード認証をくぐるくらい今の私にはチョロい。無防備なドアを開け、血が垂れるのにも構わずずるずると歩いた先に、ようやくコレキヨを見つける。あいつも左肩を抑えて荒い息だった。
「おい、コレキヨ! コレキヨ!」
私はコレキヨの元へ駆け寄る。
「大丈夫か? おい?」
コレキヨが顔を上げる。
「かすめたらしい。当たっちゃいない」
銃弾の話か。
「お前も、血……!」
コレキヨが私の脚を見る。私もつられて傷口を見る。
「平気」
「平気じゃねー」
コレキヨは困ったように体を叩き始めた。何か止血に使えるものを探しているらしい。
「あった。今日はまだ使ってねーから綺麗なはずだ」
そう告げてポケットから出したのは、ブラウンのハンカチだった。なんだよ、日本人ってやっぱマメだな。
コレキヨが私の傷口にそれを巻く。途端に滲む、血。
「いてて……」
「いいからつけとけ」
「コレキヨの傷はどうすんだよ」
「俺は頑丈な服着てるから大丈夫だ」
「救急車来たら最初にぶち込むからな」
ほらこれ、とコレキヨがパソコン、トランシーバー、拳銃を渡してくる。受け取りながら私は訊ねる。
「外部と連絡はとれたか?」
コレキヨは「これからだ」とポケットからスマホを取り出した。アンテナを見る。繋がってる! コレキヨはすぐさまボタンを押す。しばしの沈黙。
「もしもし」
と、通話が繋がったタイミングだった。
何かが壁に叩きつけられるような音がして、どたどたと足音が聞こえた。私は焦った。非常階段の方から音がした。くそ、あいつら追いかけてきたか……!
進展六:妨害電波発生装置を破壊できた
持ち物:パソコン、トランシーバー、ハンドガン
*
「モタモタしてる場合じゃない!」
私は叫んでコレキヨのスマホをひったくった。
「斉藤製薬のビル! 相手は銃を持ってる!」
電話口にそれだけ怒鳴ってコレキヨにスマホを投げつける。コレキヨがそれを受け取り銃を手に取る。
「どうする?」
そう、訊いてくる。
「くそっ、逃げ場がねぇ」
非常階段の方を塞がれちゃ逃げられねぇ。私は呻く。
「ぶちのめすしかねーか……」
「よっしゃ」
乗り気なコレキヨ。
「おいおい向こうは暴力のプロだぞ。多分訓練受けてる。どう戦うか考えねーと」
「どうってここまで来たら銃ぶっ放すしかないだろ普通」
「ぶっ放し方考えろつってんだ!」
私はハンドガンを手に取る。と、パソコンの方に通知音があった。私はそれを開いた。
私がタブレットでテロリストどもを出し抜くために使った「誰かいますか!」コマンド。このビル中のシステムに呼びかけていたそれに、今頃反応があった。
無線が使えるようになったからか……? とにかく、新しく応答してくれたのは、防災システムだった。あれ? 待てよ? これとカード認証のシステムを上手く使えば……? 私はニヤッとした。
「……おい、コレキヨ」
銃を持って気が立っているコレキヨに、私は話しかける。
「作戦言うぞ」
進展六:妨害電波発生装置を破壊できた
進展七:防災システムに侵入できた
持ち物:パソコン、トランシーバー、ハンドガン
プラン二:奴らの下っ端をぶちのめす
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