2ー53【悪女な魔女1】



◇悪女な魔女1◇ミオ視点


 善意でこの女を助けるって訳じゃない。

 俺だって、当時ははらわたが煮えくり返る思いで戦ったんだ……それを安々と許すようなら、故郷……あの焼けてしまった村に申し訳がない。


「あんたには、まだ未来があるんだ。手を伸ばしたって、バチは当たらないさ」


 それは当然の権利だ。

 誰にだって助けを求める権利はあるんだから。

 それを許すか、助けるかはまた別問題であるが……少なくとも、この弱りきった女性は、この数年で劇的に変貌している。


 俺がこの女の本質を知らないだけかもしれないが、賭けてみるには丁度いい。

 外にいるあの馬鹿には失望させられたからな。


「でも……アタシは」


 左目をおおうように被るヴェール。

 確か、頭部の半分にダメージを負ったはずだから……このヴェールで隠しているんだろう。


「あんたが負った傷、あの時の俺は、それがお前の罰だって思ってた」


「……それは、その通りだわ、アタシもそう思って……」


「――でもやめだ」


「……は、はぃ??」


 もう、御託ごたくを並べて考えるのは無しだ。

 今、俺の敵はあの男……アリベルディ・ライグザールだけだ。

 そしてその仲間であるダンドルフ・クロスヴァーデン……奴らの戦力、外に寝ている【精霊心通ユニゾン】をした【死葬兵ゲーデ】。

 それの対処をできる可能性……それをレフィル・ブリストラーダは持っている。


「あんたは奇跡の聖女様だったな……」


「……それは、もう」


「分かってる。だから……レフィル・ブリストラーダ、お前――魔女になるつもりはあるか?」


「……魔女?」


「ああそうさ、それも……とびっきりの悪女な、ダークな悪者さ」


 この女は戦力になる。

 改心した……と断言するにはまだ早いが、それでも手綱を握る価値はある。


「どういう、事?アタシは……もう長くないわ。それは先生も、外にいるアレックスたちも、分かっているはず……だから、こうして最後を看てくれるんだと」


「だから、それが間違いだって。その黒痕くろあとは……俺が与えたダメージだぜ?」


 俺はニヤリと笑ってやる。

 能力――【破壊はかい】の影響の黒いバグ。

 あの時の俺のままだったら、今でも干渉は出来ないだろうが……


「それは別に、傷じゃない。バグって空間がおかしくなってるんだ、だから……取り除けば治るさ。ま、昔の俺は出来なかったけど……そう思えば、今ここで会ったのはタイミングが良かったな。人間的にも成長したし、器もデカくなったしな!」


 腰に手を当てて、ふんすと威張るように言ってみる。


「な……何を言っているのよ、キミは……」


 呆れているのか、それとも心底以外だったのか。

 レフィルの表情から少しだけ、俺に対する恐怖感が薄れた気がした。


「何って、協力を求めてんだよ……俺が」


「本気で言っているの?敵だったのよ?アタシは……キミの故郷をっ!」


「故郷は、もう作ったさ。前よりもずっと理想的な、未来へ残すべきものを」


 なくなった村をそのまま再現する事も出来た。

 でもそれじゃあ、【豊穣の村アイズレーン】は一生そのままで終わったはず。

 未来で輝く為に、未来を広げる為に、俺は最善を尽くしたと思っているよ。


「……未来だなんて、そんな……アタシはっ」


 まずは、その陰気を取り除く所から。

 あーもう、決めちまったもんは仕方ない!!後で仲間たちから何か言われるかもしれないが、【死葬兵ゲーデ】の詳細や貴重な転生者を、むざむざ死なせる事もない。


 使える物はなんでも使う。

 それが改心した聖女だって言うなら、それはもう見事な魔女になれるだろうさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る