第一章【世界への一歩、それは村から始まる】

プロローグ1ー1【再び動き出す転生譚1】



◇再び動き出す転生譚1◇


 異世界【レドゥーム・アギラーセ】。

 神によって創造された数ある異世界の中の一つであり、しかしこの世界だけは唯一、主神の一存で進化を止められていた世界だ。


 進化を止められる。その結果は当然……衰退すいたいした、出来損ないの異世界の誕生である。

 その異世界は技術も、歴史も、人も、未来に進む事が出来ないという事実だった。


 年月にして……実に四千年近く。

 しかし、そのありえないほどの停滞を続けたこの異世界はようやく、たった一人の転生者によって未来まえに進む事になる。


 青年の名を――ミオ・スクルーズ。


 前世の名を武邑たけむらみお……しくも前世と同じ名を付けられた男。

 手違いにより命を落とし、女神の手違いによって転生し、この異世界で十七年の少年時代を経過した、ミオ・スクルーズの歴史だ。


 これは前世で三十歳で死に、みおからミオに生まれ変わり、そして神王みおとなる男の……真の異世界を創造するまでの――転生譚だ。





 この世界には、三つの大きな大陸が存在している。

 舞台は東の大陸……後に【アルテア大陸】と呼ばれるようになる、一つの村から発祥した、世界の中心となる場所だ。


 転生者ミオ・スクルーズと、その因縁である仙道せんどう紫月しづきとの戦いから二年が経った。

 三国国境の村【アルテア】は、日に日にその勢力と領土を拡大し、今や小国と呼ばれる規模にまで、その力と権威、そして認識を大きくさせていた。


 その【アルテア】の管理者こそ、転生者の青年ミオ・スクルーズだ。

 このの創造者であり、数いる転生者を束ねるリーダー的存在。


 【サディオーラス帝国】、【リードンセルク女王国】、【テスラアルモニア公国】の三国境に創られた村は現在、世界一の〇〇……という名目のもと、数多くのチャレンジを重ねられている。


 その一つが、世界一大きな塔だった。

 【アセンシオンタワー】と名付けられたその塔は、“天まで昇る”、“女神が見ている”、などの文言で話題となり、【アルテア】一の観光名所となっている。

 しかも、その塔は“遠くからの視認が出来ない”、“日照問題が発生しない”など、転生者たちによる不可思議な現象と能力によって、その神秘性は揺るがないものとなっている。


 更に、【アルテア】には五柱……この場合は五人と言わせて頂くが、女神が存在する事も起因している。

 “女神が見ている”といううたい文句だけあって、実際に女神が存在している事を知った人々は、それぞれ自分の国や他所よその町で触れ回ってくれた。


 結果は勿論……途切れる事のない観光客や移住者の激増が起きた。

 それにともない領土の拡大、近隣の小国からの交渉や和平の申し出を始めとした、協定も進めている。


 女神を崇拝すうはいする数も増え、女神のその力……神力も増大した。

 以前よりも強力に、更には美しく成長した【アルテア】の初代崇高女神、【慈愛の神オルディアナ】こと――アイシア・ロクッサ。


 ミオ・スクルーズの幼なじみでもある彼女に心酔し、わざわざ他国から移住する者まで現れた。

 他の女神にも、それぞれの国からの崇拝すうはいは留まる事なく、人々からの崇拝すうはいを力にして寿命を伸ばすといった方法を行い、【アルテア】の地盤は盤石となっていた。


 そして、その盤石となった【アルテア】の管理者――ミオ・スクルーズは。


「ど、どぉ……何処どぉぉぉこに行ったのよ!!あの馬鹿弟はーーーー!!」


 激しきいきどおるのは、ミオ・スクルーズの姉――クラウ・スクルーズ。

 背丈の低い幼い容姿ではあるが、立派な成人女性だ。

 彼女は数いるうちの転生者の一人であり、前世ではミオの同級生だった女性である。


 特徴的な長い金髪を後ろで束ね、ポニーテールをブンブンと揺らして激怒する。

 更に特徴的なうっすい胸を張り、怒りを込めた眉間みけんが物語るのは、管理者である弟が、この会議にいないからだ。


「――知りません。さっきから気にし過ぎですよクラウさん、ミオがいないのはもう慣れっこでしょう?」


 背の低いクラウにそう言うのは、優雅に紅茶を飲むオレンジ色の髪の女性だった。

 彼女こそが、この【アルテア】の女神……オルディアナなのだ。


「けどねアイシア!あいつ……どうせまたミーティアとイチャついてんでしょうが!!サボってよ!?」


 机をバンッ――と叩き、ヒクヒクと口端を震えさせるクラウ。

 既に十数回。ミオはこうして会議をサボっていた。

 しかし、女神の名であるオルディアナと呼ばれた……アイシア・ロクッサは。


「あたしに言われても困りますよ……それに、ミーティアと一緒とは限りませんよ?」


「……は?」


 アイシアは瞳を輝かせる。

 濃紫こむらさきの眼は、あやしくも神々しく神力を発し、アイシアにとある光景をせてくれる。

 これが彼女の能力。女神としての能力――【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】だ。

 効能は、人の運命の二択を、どちらかのパターンだけ見せてくれるというもの。


 この【女神オルディアナ】としての能力は、この二年で劇的に自由度が上がっていたのだ、こうして自由に発動できるようにまで。

 スッ……と瞳の輝きを元に戻して、アイシアはた光景を口にする。


「……うん。ミオならこの後、畑に行くそうですよ。どうやら村長に呼ばれたそうですね」


 アイシアは紅茶を飲みながらクラウに教える。

 た光景は、今から十数分後の未来だ。


「はぁ?パパに?……私は呼ばれてないんだけど」


 クラウはジト目でアイシアを見る。


 未来をたとはいえ、それは確定ではない。

 【代案される天運オルタナティブ・フォーチュン】は、選択を迫るものではなく、最善の未来を選ばせるための手段に過ぎないのだ。


「ミオの事はご夫婦で呼んでいますし、レインさんとお婿むこさん……アドルさんも一緒ですね。妹のコハクちゃんもいますよ?」


 その結果を聞いた、スクルーズ家の一員であるクラウは。


「い、一家総出じゃない。余計に私が呼ばれない事に、異議を唱えたいところだわ……」


 村長とは、この【アルテア】の帝国領をまとめるルドルフ・スクルーズの役職だ。

 そしてスクルーズ家総出なのにも関わらず、一家の次女であるクラウが呼ばれていなかった。その事に不満を覚えるクラウ。


 しかしアイシアは。


「クラウさんは最近、公国領での作業が多いですし〜?」


 少しニヤリと笑い、含みのある視線をクラウに向けた。

 クラウもその視線の意味が理解できるからか、逸らす。


「だ、だからなによ」


「いえ、皆さん遠慮されているのでは?」


「だからなんで!?」


 クラウは、二年前に公国内を一人旅している。

 その際に色々とあり、それ以降なにかと公国のあり方に肩入れしている節がある。


「なんでって、それは……ルーファウスさんの事では?」


「――うっ!!な、なんでルーが出てくるのよ……」


 あからさまに動揺する小さな女性。

 今名が出たルーファウスというのは、ミオの友人にして、【テスラアルモニア公国】の代表である、貴族の青年の名だ。


 公国公爵、ルーファウス・オル・コルセスカ。

 三代国家の代表の一人。そして【女神ウィンスタリア】の子孫であり、ミオの親友。


「さぁて、なんででしょうね〜?」


 ニヤリと笑うアイシア。

 あたしは知っているぞと、先程クラウに向けられたジト目を返す。


「くっ……くぅ」


 両手で顔をおおうクラウ。

 まだ、そこまでの間柄ではない。だがしかし、最近ちょくちょく会うのは否定できないし、彼の実直な性格と剣の実力、そして人柄に惹かれ始めているのは、紛れもない事実だった。


 そう……ミオだけではないのだ。

 この異世界で恋愛をする転生者は、多くいる。

 クラウもその一人と言う事だ。例え、前世では万年喪女の独身女性だったとしても。

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