大丈夫? 私の声、ちゃんと聞こえてる?

神楽耶 夏輝

プロローグ

 高校2年の初夏。

 僕は、隣町の介護施設に入所しているおばあちゃんのお見舞いに行くことになった。

 バスに揺られておよそ30分。


 施設がある場所は、バス停から更に歩いて30分。

 小高い丘の上にある施設までの道のりは、とても入り組んでいて、僕は道に迷ってしまった。


 その時にばったり出会って、道案内をしてくれたのが、ちいちゃんこと、小川智衣。

 ちいちゃんは、小さい体で幼い顔立ちだけど、僕より2つ年上のれっきとした大学生。


 笑顔が可愛くて、見かけに寄らず案外しっかり者。ノリがよくておしゃべりで、一言で言うと太陽のような女の子。

 年上の女性に女の子なんて言い方したら失礼かもしれないけれど、ちいちゃんには女の子という呼び方がとてもしっくりくる。


 なにより、ちいちゃんの魅力は、とてもとても声が小さい事。

 ちいちゃんの声を、言葉を、ちゃんと聞きたい一心で、僕は精一杯彼女の口元に耳を寄せる。

 自然と縮まる距離にドキドキが止まらない。


 ちいちゃんはいっぱいいっぱいに背伸びをして、僕の耳元で、こう囁くんだ。

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