転生先が思っていたのと違う件
葉っぱふみフミ
第1話 男→女、生まれ変わるのを願う
にぎやかな昼休み西宮理人は自分の机で一人お弁当を食べていた。クラスの周りの子は、数人でグループを作りながら仲良くおしゃべりしながら食べているのに、僕は一人だ。
いわゆるボッチというやつで、クラスのみんなから無視されるわけではないが、話しかけても事務的に返事をされるだけで、特に会話が弾むこともない。
それを寂しいと思う時期はとっくの昔に過ぎてしまい、今は一人の学校生活にも慣れてしまった。
高校入学と同時に入ったバスケ部も練習のきつさから1か月で辞めてしまい、バスケ部の同級生とはそれ以来疎遠になってしまった。
かといって帰宅部の同級生もその1か月の間にグループが形成されてしまい、今更中に入るのは難しい。
中学時代仲良かった友達はこの学校にはおらず、単に同じ中学出身というだけで絡みに行くのも気が引けてしまう。
お弁当を食べ終わると、やることもないので授業の復習を始めた。遊びに誘われることもないので勉強ばかりしていたことで成績が上がったことが、ボッチであることで唯一良かったことだ。
「ねえ、西宮君。次の授業、数学だけどこの問題わかる?」
「どの問題?」
「この問題。私が当たるだけど、全然わからなくて。解らないと先生怒るでしょ。ねぇ、お願い」
英作文の問題に取り掛かっていると、同じクラスの女子から顔の前で両手を合わせてお願いされた。数学の授業は、課題の演習問題を出席番号順に当てられることになっている。
解けないと「真面目に授業聞いてないから解けないんだぞ」と怒り出し、クラスのみんなから
「この問題はね、aが正か負かで場合分けして……」
こんな時だけしか話しかけられることがないので、意気揚々と答えを教える。
「さすが、西宮君」
「ところで、」
「じゃ、ありがとうね。またお願い」
自分の用事が済むとさっさと自分の席へと戻って行かれた。いつもこうだ、質問してきたついでに雑談でもと思って、話を振ろうとするが逃げられてしまう。
どんな話題にもついていけるようにと、最新のアニメや流行りの歌も全部調べてあるのに披露するチャンスが巡ってこない。
「はぁ~、今日もダメだったか」
そんな独り言を漏らしながら、一人自転車をこいで自宅へと帰る。
信号待ちの交差点の向かいに本屋が見えた。そうだ、今日が発売日だったはずだ。信号が青に変わると一目散に本屋へと向かった。
店内に入ると、迷うことない足取りでライトノベルのコーナーへと進む。
あった、あった。新刊ということもあり、目立つところにお目当ての本が山積みされて置いてあった。その中から一冊手に取りレジへと向かう。
他に面白そうな本はないかと、本棚を一通り目を通した後レジへと向かった。
レジには数名並んでいた。その中に一人、同じクラスの東野さんがいるのを発見した。
東野さんも休み時間は僕と同じように、友達とはお喋りせずに黙々と勉強ばかりしている。でも、僕とは違って友達がいないこともないようで、話しかけてくる女子もいる。
これをきっかけに仲良くなろうと声をかけてようとしたが、今自分が持っているラノベを見られると引かれてしまいそうなので、声をかけるのは控えることにした。
「ただいま~」
「お帰り」
玄関を開けると、キッチンから母の声が聞こえた。
「美樹は?」
「部活があるって言ってたから、まだだと思うよ」
二つ下の妹:美樹は、生成優秀なうえに3年生が引退して2年生主体となったバレー部の新キャプテンに選ばれるなど、僕とは違って陽キャラな人生を歩んでいる。
「ただいま~、おなか減った~。お母さん、晩御飯何?」
「美樹、お帰り。今日はハンバーグよ」
「やったー、着替えてくるね」
リビングで勉強していると、美樹が帰ってきた。美樹が帰ってきたところで、毎日残業で遅い父親を待つことなく、夕ご飯が始まる。
「それでさ、今日また告白されたの。よりによって、暗そうな奴でさ。いい迷惑。この前、ちょっと話しかけただけで勘違いしちゃったみたいで、困っちゃうよね」
「美樹、何人目?」
「中学に入ってからだと、4人目かな」
尋ねた母はあきれた表情になっている。
身内のひいき目を差し引いても、美樹は標準以上の可愛さがある。アイドル並みとは言わないが、クラスで一番かわいい子ポジションであるのは間違いないだろう。
成績優秀な上に見栄もよく、運動神経もあり、天は二物も三物も彼女に与えたようだ。
「ごちそうさま。お風呂入ってくるね」
夕ご飯をそそくさと食べ終わると、お風呂へと向かった。家でも話題の中心は妹の美樹であり、僕が主役になれる場所はどこにもない。
お風呂を済ませて自室にこもり明日の予習を終わせると、カバンから本屋で買ってきたラノベを取り出した。
主人公が異世界に転生して魔王と戦うシリーズの最新作だ。続きが気になっていたので夢中で読み進めた。
ラノベはよい。僕のできなかったことを疑似体験させてくれる。ほかにも、かわいい幼馴染とのラブコメや女子ばっかりで男子の少ない世界に転生してモテまくる話など、読むと孤独でつまらない現実の学校生活を忘れさせてくれる。
ラノベは3分の1ほど読み終えたところで、時計を見ると日付が変わろうとしていた。
続きも気になるけど、そろそろ寝ることにしよう。ラノベのように明日の朝起きたら生まれ変わっていないかな。
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