冷酷な定め
目覚まし時計の音で目を覚ました。外を見ると昨日と変わらず水で覆われていた。そのせいかいつもより暗く感じる。私は夢凪の家に寄ってから学校に向かった。
「ごめん。今日も行けそうにない」
辛そうな声がインターホン越しに聞こえる。私はいつも通り歩いていると神社の前に人集りが出来ているのに気がついた。様子を見るとそこはまるで何も無いかのように黒くただ虚無が広がっていた。ただ神社だけは黒い水に浮かぶ島のようにぽつんと残っていた。
「なにこれ!」
「なんなんだろうね」
藍空が声をかけてくる。見たこともないような現象に辺りにはざわつきが飛び交っている。しかもよく見ると虚無が徐々に広がっているようにも見える。すると次の瞬間、
「きゃーーーー」
悲鳴が辺りに鳴り響いた。空に漂っていた水が一気にこの範囲に降り注いだ。一部の建物は壊れてしまった。なぜこのようなことが起こっているのか分からなかった。私は急いで家に避難した。その日からも世界の異変と呼べるようなものは起こり続けた。
「ねえ、藍空このあとどこ行く?」
「別に水波が行きたいところならどこでもいいよ」
「じゃあ、レストランにでも行こう!」
「うん、わかった」
これは明晰夢だ。そこにはただ普通の街で大人になった私と藍空の2人が楽しそうに遊んでいた。大人になっても藍空と一緒だといいな、そう思いながらその光景を見ていた。
電話が鳴った。それは夢凪からだった。
「もしもし」
「夢凪。体はもう大丈夫なの?」
「うん、まあな。それよりこのあと俺と水波と藍空で話したいから神社で待ち合わせにしない?」
「いいけど神社って虚無に侵食されているんじゃないの?」
「まだ何とか持ちこたえているらしい。もうじき飲み込まれるらしいけど」
「分かった。じゃあこのあと神社集合ね」
「おう。じゃあバイバイ」
私は久しぶりに夢凪に会えるのが嬉しくてたまらない。この変わり果てた世界に希望が見えてきた。傘をさして駆け足で公園に向かった。神社に着くと夢凪が待っていた。
「話って何?」
「それは藍空が来てから話すよ」
それから五分ほど経ったところ藍空が来た。
「2人とも早いね。それより話って言うのは?」
「水波と藍空に、いやこの世界にって言った方が正しいのかな。謝らないといけないことがあるんだ。だから今から話すことをしっかりと信じて欲しい。少なくとも俺は2人なら信じてくれると思っているから話そうと決めた。だから、信じて」
「うん」
「俺実はもう死んでいるんだ。5年前くらいに」
私は衝撃的な発言に胸が打ち付けられた。
「それってどういう」
「まあそうなるのも分かる。でも最後まで聞いて。俺は子供の頃ころ家族旅行で海に行った。初めての海でとても楽しくて、でもはしゃぎすぎてそのまま溺れた。俺を助けようとした母さんは共に死に、父さんは家族2人を救えず周りから蔑まれてた。良く考えれば怖くなるのも分かるけど。だから俺は親孝行出来ずに、それどころか迷惑をかけまくって死んだ。だから未練が沢山残っていた。そんな時天国にいる神様にこんなことを言われた。
『後悔ばかりの人生をやり直してみないか。正確に言うと新しく君と君の家族が生きている以外現実世界と全く同じ夢の世界を創ってそこで暮らしてみないか?』
と。もちろん俺は賛成した。それでできた世界が今俺たちが生きているこの空間なんだ。僕はこの世界で暮らせたのが本当に楽しかった。でもあるとき水波が紙を見つけた。最初は別に何とも思ってなかったが、過ごしていくうちにそれが元の世界へ戻るための鍵だと気づいた。だから俺は怪しまれないように防ごうとした。2人がいない間にこっそり家に侵入して紙を奪ったのも俺だ。でもそんなことをしているうちに世界がどんどんおかしくなっていって、俺が夢の世界の終焉を引き延ばそうとするほどに。これ以上嘘を吐いて2人以外までに迷惑がかかるのが嫌になった。だから今日2人に話したんだ。だから紙を渡すからそこの池に入って元の世界に戻れよ」
今までの不可解な出来事が全て頭の中で繋がった。それと同時にもっと大きな別のものが粉々に砕かれたような感覚がした。
「ねえ!その話本当なの?」
夢凪は涙ぐみながら頷くだけだった。私は何もかも信じられなくなりそう。藍空が夢凪に抱きついた。
「なんで!どうして!」
「ごめん。2人なら俺がいなくても楽しく暮らせるって信じているよ。だから早く、池が虚無に飲み込まれていまう前に」
「新しく夢の世界を作れないの?」
「それは無理だよ。この夢の世界すら本来は有り得ないことだから」
「記憶は残るの?」
「残らない。でもさ、俺は2人と一緒に過ごせて幸せだったよ。本当にありがとう。だから泣かないで。本当の世界に行っても夢を持って人生を大切に生きて」
虚無は池を侵食し始めた。
「さあ、早く」
「そんな」
「水波、そろそろ覚悟を決めなきゃなんじゃないの。今夢凪が1番望んでいるものは君の笑顔だよ。だから池に入ろう。それと夢凪、俺もお前と一緒にいれて本当に楽しかった。ありがとう、そしてさようなら」
「夢凪ー!今までありがとうー!」
私は涙で濡れた顔で笑いながら大声で叫んだ。
2人で池の中に飛び込んだ。
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