第15話うみへ

11月神戸ハーバーランド「うみへ」。


潮風が心地好く涼しい。


 東風が二人の間隙をすり抜けて行く。


ラニーニャが発生しいていて、まだ初秋の装いのままだったが神戸港の波は穏やかで波という波は無く凪状態だった。


暖冬という季語が良く似合っていた。


 49年前に入港したクイーンエリザベス号の乗組員はハーバーランド造成工事前の現場を観ている筈だ。


「亮一さん!写真撮ろうか!?」

大きめの声でなければブルースカイに抜けて行く気がしていた。


静かな昼下がり、頭上の太陽と周りの空模様は季節の先取りをしていて、空はもう真冬だった。


「僕は良いよ、ナオを撮って上げる。おいで!?」


護岸フェンスに凭れていた亮一が背中を離して二、三歩直美に近付きカメラを奪った。

黒い革コートの裾が翻ってまるでハリウッド映画「マトリックス」の様でカッコイイと思っていた。

「シャッターを押すだけだね?」一人でこう言いながら直美から離れてファインダーを覗く。

 直美のバックは巨大な観覧車がゆっくり回りながらこちらを観ていた。


一縷(いちる)さんが私達を観ているかもね・・・。


浜風に吹かれながら脳裏の片隅で考えていた。


シャッターを押した亮一が顔をカメラから外して

「今、何か考えている?南海トラフ地震の大津波がこっちへ来たらどうしようかって考えているのじゃ無いの?」

にやけながら直美の方へ歩み寄った。


「良いお天気だなって・・・。」


亮一を見上げながら笑った。

「嘘つき。」

カメラを渡しながら半笑いで呟く。


超能力者なの・・・?

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