熱病

木田灯

恋を知りたい

「わたし、一度は恋愛してみたかったな。この前友子さんから借りた小説の主人公みたいに。だって、このままじゃ恋を知ることがないままに一生を終えてしまいそうだから。」

診察を終えた奈津は、突拍子もないことを言い出した。病気の状態が良くないようで、最近彼女は弱気なことばかり言う。

「何言ってるの、これからすればいいじゃない。」

私は暗い気分にならないよう、少しでも前向きに物事を捉えるようにしていた。

「友子さんはいつもわたしを元気づけてくれるね。でも最近本当に具合がよくないの。ここから出られる気がしなくて。」

彼女の声はどんどん細くなって、最後は消え入りそうになった。少し涙が目ににじんでいる奈津も愛おしいと私は思った。


奈津は14歳の秋、1918年の10月に伝染病を患い、東京を離れてこの長野県のサナトリウムに入った。私は看護師としてここで勤めている。医師や他の看護師が、美少女が入ってくると騒ぐものだから、事務室から入り口を見張っていると、確かに美しかった。思えば私はその瞬間から、彼女を恋い慕っていた。その時代にサナトリウムで療養生活を送ることができるのは限られた裕福な子女だけだった。当時十代の患者は奈津しかおらず、歳が近い私ぐらいしか気心が知れた人はいないようだった。

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