第32話 リセットしたい救世主
「……【救世主からダンジョンのボスを守る会】かえ?」
「はい。総称で【救ボス会】と名乗る、ダンジョン保護団体だとか」
DUN機関の本部にて、D班の班長ミリンダと副班長の楓が大きなモニターを眺め何やら話し込んでいる。
モニターでは上空から撮影されたと思われるアングルで、藤堂 健太と黒スーツの痩せた男の姿が映し出されていた。
偵察用ドローン『サリエル』からの映像だ。
周囲の景色に同化できるステルス機能と自動追跡機能を搭載された最新型であり、複数機存在する最新型である。
使用目的は、D班のもう一つの目的である「救世主である御幸を守る」ため、彼に害を及ぼす者達のマークであった。
当然ながら御幸を苛めている、藤堂 健太はブラックリストであり以前からマークされている。
以前、藤堂が半グレチーム『
そして今回、社会的に抹消されようとしている藤堂に謎の男が近づいている姿を捉えたのだ。
映像は男が藤堂に名刺を渡している様子が映っており、名刺部分がウィンドウで拡大されている。
ミリンダは大きな紅い瞳で、その映像を見入っていた。
「実行部の猫間ひろし? ハックした市役所のデータベースからは該当せん男じゃったな?」
「はい、念のため警視庁にも問い合わせましたが犯罪歴など一切ありません」
「だとしたら、妾と同じ『異世人』の可能性もあるが……防衛省、いや政府はなんと言っておる?」
「そのような男は関知していないとの返答です」
「……なるほどな」
ミリンダは専用の皮椅子に凭れて両腕を組む。
見た目は真っ白な12歳くらいの美少女。
楓は無表情ながら密かに(おかわゆい……ミランダ班長、なんておかわゆいのでしょう! もう最高ッ!)とテンションを上げていた。
「……班長、何か思い当たるところでも?」
「うむ……なくもない。じゃが、まだ口に出せる範囲ではあるまい。この件に関して、司令官はなんと言っておる?」
「はい、『藤堂を泳がせ情報収集せよ』との意向です」
「得体が知れない以上は無難なところじゃな……ん? 楓よ、あれを見よ」
ミランダの指摘に、楓は流れ続ける映像を見据える。
猫間は藤堂と言葉を交わし後、そのまま二人でどこかへ歩き出した。
だが瞬間――猫間だけは上を向き、フッと笑みを零した。
しかもモニター越しでミランダ達と視線を合わせ、あえて意識しているような素振りを見せた上で。
ほぼ同時に映像は突如途切れてしまう。
すぐ復旧し再開されるも、次に映し出された時には二人の姿がどこにもなかった。
尚、後の解析によると立花博士からは、『サリエル』の誤作動や故障ではない「原因不明」という見解がなされている。
ともあれ。
「……気づかれてますね。あの猫間という男、いったい何者なのでしょうか?」
「食えん奴よ。どちらにせよ、実害がない以上はこちらも動けん。司令官の指示に従い監視を続けるぞ。その【救ボス会】とやらの実態を含め徹底して調べあげてやるのじゃ!」
ミランダは口調こそ落ち着いていたが眼光は鋭く怒りが込められている。
そんな小さな班長を楓は「きゃわゆい♡」っと、愛しく思いながらも表向きは冷静さを装う。
「わかりました、班長」
忠実な副班長として頷いた。
◇◇◇
煉獄ダンジョン攻略した次の日。
俺は普段通りに登校すると、またまた環境が変わっていた。
いつの間にか「藤堂 健太」が学校を自主退学していたのだ。
理由はよくわからないが、俺が有名になったことで色々なところから叩かれたことが要因だと思われる。
なんでも奴の父親もダンジョン管理省の事務次官を辞任したとか。
昌斗さんからもメールで「ケンをギルドから解雇させた。そのことで今後、あいつから何かしら訴えてくるようなら、すぐ俺に連絡してほしい」と送られている。
なんだかこれまで奴が築き上げたモノが、いっきに失ったように思えた。
被害者の俺からすれば「ざまぁ」と言いたいけど、向こうから勝手に自滅した感じで気持ちが置いてきぼりになったような感覚だ。
アリアから「己が犯した罪と向き合わず、逃げ続けた結果ではないでしょうか」という言葉が述べられ、俺もその通りだと思った。
さらに、担任教師も出勤停止となっており、新しい教師に代わっている。
また藤堂の取り巻き達も無期停学処分が決定され、クラス内での空席が目立っていた。
「――西埜君、これから校長室に来てほしいんだけどいいかなぁ?」
ホームルーム後、新しい担任の教師がそう言ってきた。
若い女の先生だ。物腰が柔らかい優しい雰囲気を持っている。
「は、はい……何の用ですか?」
「先生の口から言えないわ。ヴァルキリーさんも同席してくれてもいい?」
「わかりました、先生殿」
アリアも同席って、いったいなんの話なんだ?
俺は首を傾げ、二人で校長室へと向う。
「失礼します」
扉をノックし、「どうぞ」という声を皮切りに校長室へと入る。
部屋には校長と教頭先生が待っていた。
「西埜君、ヴァルキリーさん、よく来てくれた。ささ、座ってください」
白髪頭の校長に進められ、俺とアリアはソファへと案内される。
進められるまま腰を下ろすと、テーブルを挟んだ向かい側のソファに教師たちが座った。
「急に呼び出してすまない。実は今回の件で、我ら教師もキミに謝らなければならないと思っているんだ」
すると、校長と教頭の二人は立ち上がったと思いきや、その場で跪き土下座をしてみせる。
「「本当にすみませんでした」」
いきなりの行動に、思わず俺は立ち上がる。
「や、やめてください! なんですかいきなり!?」
「この度の……藤堂 健太と他数名の件です。キミが長期に渡って酷い苛めを受けており、担任教師も理解していたにもかかわらず、何もせず見て見ぬ振りをしていた。理由は簡単です。彼の父親がダンジョンダンジョン管理省の事務次官という立場であること。また息子の便宜を図る上で、当学校に多額の寄付を収めていたことにあります」
そうだったのか……だから藤堂の奴、何かとやりたい放題だったのか。
「我々も知らなかったとはいえ、キミの尊厳を犯してしまったことに変わりない。世間が指摘するように、これは学校側の責任だと思っています。だからせめて、いち教師として謝罪したく、こうしてキミを招いた次第なのです」
「わ、わかりました! だからどうか頭を上げてください!」
流石に権威ある二人の大人から土下座されると、つい動揺してしまう。
謝罪されているのに、こっちが何かやらかした妙な罪悪感だ。
俺に言われ、校長と教頭は頭を上げる。
「私達を赦してくれるのかい?」
「赦すも何も……別に先生達から何かされたわけじゃないですし、そりゃあの頃は見放された絶望感はありました。でも相手が相手だし……莉穂じゃないけど、俺も何かがいけなかったのかもしれません」
「それは違う。西埜君、キミは何一つ悪くない。どんな理屈だろうと、苛めは悪だ。キミはあくまで被害者なのだから……悪いのは、それを咎めなかった私達大人達だ」
「ネットでは多くの人達がキミを称えている。不可能と言われたボスを斃せる実力だけじゃない。その勇気ある行動に誰もが敬意を示しているんだ」
「……そうだったら素直に嬉しいです。それはそれとして、ソファに座って頂けませんか?」
いつまでも四つん這いになっている二人に対し、俺は見るに見兼ねてしまい呼びかけた。
校長と教頭は「……すまない」といい、ソファに腰を下ろしている。
「とりあえず校長先生と教頭先生の誠意は伝わりました。だから俺のことは気にしないでください……あと」
「「あと?」」
「俺だけ特別扱いはやめてください。藤堂の被害者は俺だけじゃないんですから……ずっと奴に付きまとわれていた、琴石 莉穂。それに他の生徒も俺ほどじゃないにせよ、抑圧されていたことに変わりないんです」
「「……はい」」
俺は立ち上がり、アリスに「行こ」と呼びかける。
彼女は「はい」と凛々しく返答してくれた。
「それじゃあ、授業があるので失礼します」
俺達は一礼して校長室を出た。
妙な空虚感だ。
これこそ「今更」ってやつだと思った。
だからって誰かを咎めたり怨んだりはしない。
先生達には今回のことを反省し、これからは生徒の悩みに向き合ってほしい。
そう思った。
「……アリア、俺って冷たい奴かな?」
「何を仰いますか!? 決してそのようかことがあろう筈がございません! 寧ろ寛大なお心遣いだと、このアリア心から感服しておりますぞ!」
常に俺の味方でいてくれる彼女の心意気が嬉しい。
きっとアリアが傍にいてくれなければ、間違った方向に進んでいたのかもな。
それこそ、藤堂の復讐も考えていたかも……。
「なぁ、アリア」
「はい、ご主人様」
「……俺、やっぱり聖雲学園の転入を考えてみようかな?」
以前から昌斗さんと早織から誘われていたこと。
ふと自分の環境をリセットしたくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます