第8話 銀髪美少女とスキルの謎

 ダンジョン対策特務機関だと?


 特務機関といえば諜報や特殊工作など特殊軍事組織を連想してしまう。

 だから自衛隊と繋がりがあるのだろうか。

 おまけのダンジョン対策って……営利目的のギルドとは違う目的で動いている組織のようだ。


 敷地内に設置されたヘリポートに離着陸し、俺とアリアは輸送ヘリから降りた。

 自衛隊員達は道なりに整列し、俺に向けて敬礼して見せている。


「ようそこお越し頂きました、救世主様ッ!」


 やたらと畏まられてしまう。

 しかも救世主様って……どうして俺なんかがそう呼ばれるのかがわからない。

 そういやアリアも出会ったばかりの時はそう呼んでいた。

 やっぱり俺の見えないところで何かが起こっているのだろうか?

 

 アリアが手を翳すと頑丈そうな扉が開かれる。

 そのまま彼女の案内で俺は建物の中へと入った。

 内部も外壁と同様で真っ白な廊下であり、自動に進路方向へ進む動く歩道オートウォーク式となっている。

 近未来的な雰囲気を感じた。


 途中、制服を着た職員っぽい人達とすれ違う。

 ここでも俺を見るや、ビシっと直立し敬礼して見せていた。

 特に女性職員から羨望の眼差しで見つめられ、「あの方が救世主様……」「来てくれたんだぁ」「キャッ素敵ぃ」と囁かれている。

 

「みんな俺のこと救世主って呼んでいるけど、さっぱり意味がわからないや……ただボスを斃しただけなのに」


「ご主人様はそれだけの快挙を成し遂げられたということです。何せ私がいた世界でも、ダンジョンのボスを斃せた者は、伝説の『勇者』とされるただ一人のみだったのですから……」


「私がいた世界? アリアってイギリス人じゃないの?」


「……いえ違います。詳しくは本部でお話しましょう」


 それからエレベーターに乗り下降していく。

 移動時間が長く相当な深い地下に本部とやらがあるのか。


 アリアの話だと、俺に会わせたいという人物は彼女が所属する組織の「班長」らしく訳あって陽の光を浴びることができない体質らしい。

 

 目的の階に到着してエレベーターから降りると、また長々とした地下通路を移動することになった。

 しばらく進むと突き当りに扉があり、近づくとプシュと自動で開かれた。


 そこは広々とした部屋。

 薄暗い空間で至る箇所にデスクとモニターが設置されている。

 まるで映画やアニメで見る司令室のような見栄えだ。


「――よく参られた、救世主殿」


 甲高い声と共に部屋がパッと明るくなった。

 中央の大きなスクリーン前でデスクが設置されており、革製の椅子に腰かける女性がいる。

 また隣には背筋を伸ばして佇む、もう一人の女性がいた。


 にしても椅子に座っている方は随分と小柄で幼く見える。

 女性というより明らかに子供だ。小学生の高学年くらいだろうか。

 長い銀髪をツィンテールにし、漆黒のゴスロリ衣装に身を包んでいた。

 血に染まったような赤く大きな瞳、鼻梁と唇は小さく整っており、まるで西洋人形のような可憐な美しさを秘めている。

 真っ白な肌、いや寧ろ血の気がなく蒼白ぎみで不健康そうだ。


 ……それに気のせいか?

 さっきから薄い桃色の唇からキラリと光る牙のような物が見えているぞ。


わらわは、ミリンダ・ドラクル。ダンジョン対策特務機関、D班のチーム主任であり実行部隊の班長じゃ」


 ミリンダと名乗った銀髪美少女は威厳を込めた喋り方で自己紹介しながら、どっしりと椅子に背を凭れている。

 子供とは思えない随分と偉そうな態度だ。


「D班の副班長を担う、東雲しののめ かえでと申します。以後、お見知りおきを」


 もう一人の立っている方、東雲と名乗る大人の女性は丁寧に頭を下げて見せる。

 歳は20代前半くらいで、銀縁眼鏡をかけた無表情でクールな印象だ。

 上質な色気が漂う大人のショートカットと綺麗に分けられた前髪、キリっとした端整な顔立ちは美しさとカッコ良さを醸し出している。

 自衛隊制服のスカートタイプを着用し、すらりとした高身長でスタイルも良さそうだ。


「ど、どうも……西埜 御幸です」


 一応、俺も名乗ってみる。しかも小学生相手に敬語で。

 ミリンダから「うむ。まぁ座るのじゃ」と促され、用意された椅子に腰を降ろした。


 妙な空気が流れ始める。

まるで圧迫面接を受けている感じだ。


「わざわざ呼びつけてすまなかったのう。アリアから聞いていると思うが、妾は陽の下から体を晒せぬ身じゃ。どうか許してほしい」


「い、いや……なんでも班長さんから、俺のスキルについて色々教えてくれると聞いたので」


「うむ、そうじゃ。まずは汝が得た特異ユニークスキル、《支配者破壊ボスブレイク》について教えよう。その名のとおり、『ダンジョンのボス及び組織あるいは集団において頭領となる者を一撃でキルするスキル』じゃ。ボスに対しては絶対無比じゃが、それ以外の相手じゃと能力が発揮されぬという弱点を持っておる」


 頭領? 親分とかリーダーみたいな存在のことか?

 つまり、ボス格だけを限定して瞬殺キルするスキル――。

 だから、ただのゴブリン如きじゃ発動しなかったわけだ。

 そして藤堂の時は奴自身がいじめの首謀者であり、取り巻き達のリーダー的存在だったから条件を満たしてスキルが発動しそうになったのか。


「……そういう能力だったのか。けどこのスキル、僕が覚醒したとかじゃなくて、誰かに譲ってもらったというか、受け継いだような気がするんだけど……」


「その辺りは妾とてわからん。ただ異世界における古の伝承によると、『勇者レイド』が覚醒し魔王と邪神達を葬った《機械仕掛けの能力デウス・エクス・マキナ》だと記されておる」


 デウス・エクス・マキナ……都合よく強引に物語を収束させる舞台装置って意味だ。

 確かにそれっぽいスキルだと言える。


 けどこの真っ白な姉ちゃん。

 今、さらりと気になることを言ったぞ。

 

「異世界って何?」


「別次元の世界。汝もコミックやアニメくらい見たことがあるじゃろ? あのまんまの世界じゃ。妾とアリア、そして昨日会ったファティは異世界の住人こと『異界人』ということになるじゃろう」


 異界人だと!?

 俺はチラッと傍にいるアリアに視線を向ける。

 彼女は包み隠さず頷いてみせた。


「はい。班長とは時代が異なりますが、私と幼馴染のファティは戦いに敗れた後に、この世界へと導かれた存在です」


 なんでも異世界でアリアとファティは、当時仕えていた国王の命令により祖国を脅かしていたダンジョンのボス討伐隊に加わっていたとか。

 大勢の同胞を失う中、二人だけが生き残り『ボス部屋』まで行くことができたそうだ。

 だがボスの力や絶対で、アリアとファティは奮闘空しく命を落としてしまったらしい。


 しかし奇跡が起こった。

 気がつくと、アリアとファティはこの世界のダンジョンで目を覚まし、そのまま日本政府に保護されたと言う。


 所謂、異世界からの逆転生ということになる。

 どおりでみんな美少女すぎて現実離れしている子ばかりだと思ったわ。


「妾も似たような経緯で数十年前にこの世界に転移・ ・しておる。『ボス部屋』とは言わばブラックボックスのようなものじゃ。おそらく何かしらの奇跡が働くかもしれん……ニシノ、いやミユキ殿よ。おそらく汝も『ボス部屋』に迷いこんだことで、そのスキルを得たのじゃろう」


「なるほど……なんとなく理解できたよ。てかミリンダちゃん、またさらりと可笑しなこと言ったよね? 数十年前に転移したとかって……キミって歳いくつ?」


「妾は今年で359歳じゃ。こう見ても偉大なる『闇の魔姫』と呼ばれた吸血鬼じゃぞ」


「ミリンダ班長は嘗て魔王の娘として異世界で君臨していたそうです」


「へえ、そうなんですね……」


 副班長の東雲さんの補足に俺の理解が追いつかず思考停止したのか、つい生返事で流しそうなる。


 が、


 まてまてまて、359歳だって?

 闇の魔姫と呼ばれた吸血鬼?


 それに、おい……。


「――魔王の娘だってぇぇぇ!?」

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