底辺の探索者ぼっちくん、ダンジョン配信でうっかりボスモンスターをぶっとばし伝説級にバズってしまう~気づけば美少女達の推しとなり、散々いじめていた奴らの人生がオワコン化しているw
沙坐麻騎
第1話 ターニングポイント
ターニングポイント。
生きている以上、人生の転機は誰にでも訪れるものだと聞いたことがある。
俺にとって今がその時かもしれない。
「どこだ……ここ? ダンジョンに違いないけど……親父、大丈夫か?」
俺は隣で倒れている父親の体を揺さぶる。
親父こと、
大柄で全体の筋肉がこんもり隆起した体つき、天然パーマの髪型に太い眉毛でちょっぴり濃いめのソース顔だ。
今年で43歳のオッさんだが現役の
その手には真っ二つに折れた刀剣が握られていた。
「まぁ鍛えているからな……
「落下するところ、親父が庇ってくれたからだよ。その剣もその時に折れちまったんだろ? なんかごめん……」
「気にするな。お前に何かあったら、誰が『オヤジちゃんねる』の編集をしてくれる?」
心配なのはそっちかよ。
相変わらずクズ野郎だと思った。
だから俺は小学生以来から、こいつを「父さん」と呼んだことは一度もない。
それが俺の名だ。今年で17歳の高二である。
学校以外では、こうして動画配信者である父の手伝いで一緒にダンジョン探索しているごく平凡の高校生で、
何しろ俺の親父こと丈司は、8年前に事業が失敗して5億円の負債を抱えることになってしまった。
そのせいで母親は蒸発し、現在は妹と三人で狭いボロアパートで暮らしている。
父親はろくに定職につかず、無駄に体だけ鍛えているので土方のアルバイトでその日暮らしの日々。おかげで家計は苦しく常に火の車だ。
そこで今、巷で注目されているダンジョン探索専門の動画配信者を始め、一発逆転 を狙うことにした。
――ダンジョン。
俺が生まれる数十年前から世界中に突如現れた謎の洞窟でありファンタジーの産物だ。
当初はこの世の終わりと言わんばかりに騒乱となり恐慌をきたしたが、調査され色々と解明さていくうちに落ち着きを見せ始めた。
ダンジョンには幾つかの階層に分かれており、下に降りるほど異形の姿をした魔物『モンスター』が潜んでいる。
時折、地上に出現するモンスターもいるが、通常の銃や刃物で斃せる第一層から二層の低級雑魚ばかりだ。
昔は自衛隊や警察が対応していたが、現代では害獣として国の委託により民間組織で立ち上げた『ギルド』によって駆除されている。
またモンスターの体内に宿る『
しかも湯水の如くリポップされ、まるで無尽蔵な資源を誰もが放置しておくわけがない。
国の後押しにより各ギルドから派遣された
しかし決して安全ではない。常に死と隣り合わせの過酷な探索だ。
にもかかわらず、ここ数年前から『
最初は危険すぎる行為から批判の声こそ多かったが、国からの積極的な後ろ盾に貴重な素材や有益なアイテムを獲得し一攫千金を狙えることから、宝くじよりも高確率の夢物語として人気に拍車がかかった。
いつしか「ダンジョン配信」は娯楽として受け入れられ、現在では人気ジャンルとして確立し、より多くの
俺と親父はどのギルドにも所属していないソロ
ギルドは各市町村から委託を受けて所属する
ソロだと他人とパーティこそ組みづらいが、ギルドとの仲介料などが発生しないというメリットもあった。
また動画配信する上でギルド規制もないので都合が良い理由もある。
親父は
れいの『オヤジちゃんねる』も開設してから、もうじき一年は経つだろう。
親父が言うように、普段は俺が撮影機器の設定から動画編集を全て行っている。
ちなみに俺は
そして今回は、ちゃんねる初の生配信での撮影だった。
「――どうも、5億の借金を背負う
:駄目オヤジ降臨!
:痛すぎて草も生えない
:笑えねー
:必死すぎwww
:クズすぎてワロタ
冒頭のお決まり挨拶から辛辣なコメントが多い。
当然と言えば当然か。
こうして普段のノリでダンジョンに配信しながら探索している中、そろそろ休憩しようという話になる。
俺は体を休ませながら配信チェックのため、岩壁に背をもたれて作業していると突如壁が崩れてしまった。
「うわあぁぁぁ」
「御幸ッ!」
崩れた先は吹き抜けの穴となっており、バランスを崩した俺は真っ逆さまに落ちてしまった。
親父も飛びつく形で俺の腕を掴むも間に合わず、結局一緒に落ちてしまう。
だが親父の場合、普段から鍛えているだけあり、俺を抱きかかえながら岩壁に刀剣を突きさし落下の速度を抑え落下のダメージを最小限に抑えてくれた。
きっと、その時に剣が折れてしまったと思われる。
普段はクズだが、こういう場面では頼りになりそこは素直に感謝した。
そして現在――。
「しかし、ここどこの階層だ? マップだとエラーが表示されている」
俺はタブレットでルートを検索するも、どこにもヒットしない。
周囲はほんのりと明るい魔力鉱石で覆われた洞窟内なのは確かだが、やたらと広々とした空間だ。
「カメラはどうだ? ちゃんと撮っているのか?」
「ああ、ドローンならそこで浮いているぞ。接続も切れてないし大丈夫、生配信中だ」
ふわふわと俺達の頭上近くに浮遊するベースボール上の球体。
カメラ機能が搭載された追跡型の小型ドローンだ。
ちなみに20万円も借金した高価な代物なので、万一壊れてしまったら泣き出すどころじゃ済まされない。
「ん? 親父ッ! 視聴者が30人に増えてるぞ!」
「なんだと!? いつもなら3人とか多くて10人観てくれるかわからない、『オヤジちゃんねる』が初のバズりってやつか?」
パソコン音痴の癖に、ネットスラングだけは使いたがるミーハーな、丈司。
まぁ、アーカイブした動画も20回数観てくれればいい方だからな。
はしゃぎたい気持ちもわからなくもない。
俺はそう思いながらコメント欄を確認した。
:お、おい……やばくねーか、ここ
:知ってるぞ、以前配信で観たことある
:確かS級ギルド【
:げぇ! 挑んだSランクの
:つまりここは……嘘、マジで!
:ご愁傷様ですw
:オヤジ草
:笑いごとじゃねー、事故るぞこれ
:ちょい、後ろのあれ……まさか
:うわぁやばぁ!
:オヤジ! 後ろ後ろ!
:後ろだって!
:気づけよ!
:息子も振り向けって!
……いやにコメントが荒れているな。
後ろだって?
「いったい何があるって――!?」
振り向いた俺は絶句する。
親父の背中をバンバンと叩く。
丈司は「痛いぞ、息子!」と半ギレするも、俺は震える指先で「後ろを向け」と無言のジェスチャーを送った。
「まったく、なんだってんだ――嘘ッ!」
丈司は驚愕し、そして戦慄する。
俺達の真後ろに巨大モンスターが佇んでいた。
見た目は背中から頭部にかけて鋭利な棘が何本も生えた、ティラノサウルス。
しかし両腕が進化しているのか、隆々とした両腕は人間と相違なく、その手には
その大きさは高々とした
「こいつは……ダンジョンの
親父は声を震わせそう言った。
主とは、このダンジョンを支配するボスを意味する。
つまり俺達親子は、うっかりボス部屋に迷い込んでしまったのだ。
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