冠する者~アーサー王~
@kage51
第1章 選定の剣
第1話 始まりの丘
この世は理不尽で、残酷だ。
そう思うようになったのはほんの数年前の出来事だった。
当時は村の外のことには興味をあまり示さず、友人と家の手伝いもそこそこに昼寝などをしてさぼっていた。国が領土を広げる目的で戦争を行っているというニュースは流れてきても、特に人手が足りていないわけでもなく、かといって物資が枯渇しているなどの問題もなった。むしろ、牛歩ではあるが領土は広がっていたし、そのたびに大人たちは大騒ぎしていた。
そのため、辺境の地かつ最前線から最も遠いこの村では平和そのものだった。
ある時、友人は私にこう話しかけた。
「なあ、村からちょっと離れたところに剣が刺さった岩のある丘があるだろ?」
「確かにあるな。それどうしたんだ?」
「それがさ、その岩に刺さってる剣ってのは選ばれた人しか抜けないんだってよ。」
「へぇ……、でも割と簡単に抜けそうだけどな~」
「だろ?そんなわけで、俺らでこっそり本当に抜けないか試しに行こうぜ!」
「いいね、乗った!」
こうして、私たちは暇つぶしがてらに剣のうわさを確かめに行くこととなった。
この時の私はまさかあんな騒ぎになろうとは思いもしなかったのである――
目的の丘は村の西側にある草原を抜け、立ち入り禁止区域となっている森の少し手前に剣の刺さった岩とともにひっそりとだけれども堂々とある。とはいえ丘であることには違いなく、日が沈むときには太陽のオレンジ色の陽光によって幻想的な雰囲気が作り出される。
「いやあ、地味に遠いなここ」
友人はそんなことをぼやきながらもワクワクが抑えきれないといった表情で岩に刺さった剣を見つめている。
そんな友人を傍らに、私はまじまじと剣を観察して、
「雨ざらしになっているのに何で錆びてないんだ?この剣は。」
そうボソッとつぶやいた。
岩に刺さっている剣はやたらと日の光を反射して、まるで聖都キャメロットのパレードでちらっとだけ見たエクスカリバーの神秘的な輝きを思い出させるようであった。
「まあいいじゃねえか、どうせ本物の剣じゃなくてただのガラスかなんかで作られたモニュメントだろ?だからこうやって引っ張って、やれっ……ば……ってあれ?おかしいな、なんでだ……?」
友人は首をかしげながら何回も引き抜こうとするも、なかなか抜けない。
「いいってそういうのは!そんな白々しい演技するなよ」
「演技なんかじゃねえって!まじで抜けないんだよこれ……。ほら、ルーカスもやってみろよ」
そう言われて私は、何をバカにしやがってと思いながらあまり力を入れずひょいと剣を引っこ抜いた。
「ほら!簡単に抜けたぞ。バカにするのも大概にしろよな~」
それを見た友人は信じられないというような表情で
「え……、絶対そんな簡単に抜けるような感じじゃなかったぜそれ……。」
と告げてきた。
「もういいって、その演技は。あまりやってるとさすがに怒るぞ」
「いや本当なんだって、こればっかりは嘘でもなんでもないぜ!」
「じゃあなんでこんな簡単に抜けたんだよ」
「それは俺にだってわかんねえ!……もしかしたらルーカス、お前が選ばれた人間だったのかも」
「そんなわけないって!こんな辺境に住んでるただの小僧が選ばれるはずないだろ?」
そう言いながら私は、抜いた剣を岩に戻そうとした。しかし、何度やっても全く戻る気配がない。
「はあ⁉なんでこの剣、戻んないんだよ!」
「やっぱ、剣に選ばれたんじゃないか……?」
「ふざけんなって!もうどうすればいいんだよこれ……!」
「一旦村に持って帰って、村長に聞くしかないんじゃないか?」
「確かにそうするしかないか……。もう絶対に叱られるじゃん、行きたくねえ……」
こうして私たちは、不思議に思いながらも相変わらず神秘的な輝きを保っている剣を抱え、村長の家に向かうのであった。
冠する者~アーサー王~ @kage51
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