第17話「ほかのグループの話」

「クソっ、何で三郎丸みたいな陰キャが」


 と男子のひとりが悪態をつく。


 聖堂の庭の一画、男子三人のグループが騎士たちに見守られるというよりは、監視されながらトレーニングをやっていた。


 彼らは陰キャでクラスになじめていなかった三郎丸のことを見下していた。

 異世界に来たところで何もできるはずがないとバカにしていた。


 ところが三郎丸はみるみる頭角を現し、しかも女子たちから受け入れられはじめている。

 

「竜王寺に綱島って、クラスの可愛い女子ばかり独占かよ」


 別のひとりが舌打ちした。


 彼らが不満をため込んでいる最大の理由は、クラス女子たちの中でもとくに可愛く、人気が高い子たちが三郎丸とチームを組んだことである。

 

 自分たちはチームメンバーも指導役も男しかいないというのに。


「どうせ上手くいかないさ」


「そのうちあいつが失敗して、女子に愛想尽かされるだろ」


 彼らの三郎丸の失敗を期待していた。

 周囲の目(とくに女子たち)があるので、積極的に妨害する勇気はないのだが。


 三郎丸の話題ばかりでトレーニングに集中できない男子たちを、騎士たちは注意しない。


 一度注意しても直らなかったからだ。


 彼らは自分の命を守れるかどうかは自分の頑張り次第だと、わかったつもりでいてわかっていない。


 この騎士たちはそれを指摘して改善させてやるほど、異世界人の教導に対して情熱を持っていなかった。


 王国の人間側も全員が誠実でやる気にあふれている人間ばかりではないのである。

 

 

 光谷が自然とリーダーに選ばれたグループは男子三名、女子二名で戦士が三、呪文使いが二とバランスがよい。

 

 彼らは三郎丸たちからすこし遅れて初めてのモンスター戦闘に挑み、全員が無事に帰還する。


「何とかなったね」


 光谷が仲間たちにさわやかな笑顔で話しかけた。


「やっぱり光谷は頼りになるよ」


 神代が応えると、光谷は首を横にふる。


「俺だけの手柄じゃない。全員が力を合わせた結果さ」


「謙虚だよね、光谷くん」


 女子二名が感心した。

 

「そんな光谷だから上手く回るんだろうさ」


 と毛利が納得だと話す。

  

「君たちはかなりいい感じだな。こっちとしてもありがたいよ」


 銀髪イケメンの騎士アーノルドが彼らに笑いかける。


「どうなんでしょうね? 三郎丸たちもすごそうだし、ほかにもがんばってるグループはあると思いますが」


 光谷は慢心せずほかの様子を気にした。


「ああ、オリビア様がついてるグループが現状ではトップと言えるだろう。だけど君たちも全然負けていない。2トップだと言っていいぞ」


 アーノルドの言葉に光谷は苦笑する。


「二番手なのにそんなこと言えませんよ。もっと精進します」


「ほかの面子はともかく、三郎丸がすごくなるのは正直意外だったな」


 と毛利がぽろっと漏らす。


「そうだね。目立たない男子って感じなのに、いざっていうときはすごいタイプだったのかな?」


 女子のひとりが三郎丸に好意的な発言をする。


「彼は非常時の英雄だったってことかもね」


 神代がすこし懐疑的ながらも、三郎丸のことを評価した。


「俺たちみんなの命運がかかってるんだから、彼が頼もしいならありがたいじゃないか」


 と光谷が言うと、


「違いないね」


「たしかに」


 神代、毛利をはじめメンバー全員が同意する。



 赤城をリーダーにした女子グループたちは光谷たちから遅れながらも、モンスター戦に挑戦し、かなりボロボロになった。


「きっつー」


「これじゃあ練習がんばらなきゃだねー」


「うへー、大変」


 愚痴をこぼしながらもチームの雰囲気はそこまで悪くない。

 強くなって日本に帰りたいという意思で統一されているおかげだろう。


「聞いた、三郎丸くんがリーダーになったグループが一番順調なんだって」


 と女子のひとりがうわさ話をする。


「意外だよねー。地味で目立たなかった三郎丸くんが活躍してんのも、竜王寺さんや綱島さんたちと上手くやってるのも」


 同じクラスの仲間は自分たちしかいないからと、ほかの女子が本音で話す。


「三郎丸、あいつらの尻に敷かれてるんじゃない? リーダーって面倒な仕事押しつけられてなきゃいいけど」


 赤城が三郎丸も案じるようなことを言うが、本音は違うと同じチームの女子たちは知っている。


 彼女は竜王寺や綱島とそりが合わず、非好意的だ。

 だから結果的に三郎丸に同情的になっているだけである。

 

「竜王寺さんキツイ性格だからねー」


「三郎丸くんじゃ、つらく当たられても逆らえないだろうね」


「本郷さんってあれで竜王寺さん、綱島さんとめっちゃ仲いいから、三郎丸くんをかばわないだろうし」


 赤城の心情を察して女子たちは話を合わせた。

 

「三郎丸がもし困ってたらあたしが助けてやろうかな」


 と赤城はつぶやき、女子たちは驚いて視線をかわす。 

 当然、三郎丸に対する厚意ではない。


 彼女が三郎丸を助ければ、竜王寺と綱島の面子に傷つくからだ。

 光谷は普通に男子にも親切なので、事情を知れば彼女の味方をするだろう。


 光谷と竜王寺のどっちの発言力が大きいのかというのは難しい問題なのだが、自分が上手くもっていけば光谷が勝つ可能性は高い、と赤城は考える。

 

 そうなれば竜王寺を女子カーストのトップから引きずり下ろせる芽が出てくる、と彼女は計算した。


 三郎丸たちの現状を確認していない身勝手な思考だが、本人はそのことに気づいていなかった。

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