春と桜と別れ

宮梶霧

春と桜と別れ

 

 4/8

 

 入学式。いきなり私は同じクラスの君に恋をした。

 隣の席の君とよろしくねと言葉を交わした時の君の笑顔が忘れられない。

 どこか儚く切ない笑顔だった。この笑顔がきっかけだったのだろう。

 入学式の日から君の顔を見ることができず、目をそらすばかりだった。

 そらした先にあった景色は満開の桜だった。


「すっごく綺麗だね」


 君は子供のようにそう言った。

 その顔に目を奪われた。やっぱり私は君が好きなんだなと思う。

 

 4/12

 

 君は同じ中学校の友達と話していた。

 笑顔でいるけど、どこか暗い雰囲気を纏っている。

 周りは気にもしていないみたいだけど、少し不安だ。

 君を見ていると気が付いたのか、私と目が合う。

 どことなく儚く見えた。

 君はこの前の私みたいに桜に視線を向けた。

 私もそれを追うように桜を見る。

 満開だった桜は散り始めていた。

 

 友達と話し終えると君は私の元に来て


「連絡先交換しない?」


 と耳元で言ってきた。私はもちろんOKした。


 その晩君は、私に「今度一緒に桜を見に行こうよ」とメールを送ってくる。

 私はもちろんと返す。恋が実り始めている気がする。

 彼と脈がある。そう感じることができた。


 4/13


 君はすごく落ち込んでいた。

 どうしてだろうと思ったけど、君の心に触れることは私はできない。

 友達と話している時はさらに憂鬱になっていた。

 友達と君はどのような関係なのだろうか。

 私は不思議に思った。

 君がまた桜を見る。君は桜を見るたびまた儚く笑う。

 その顔を見るとすごく悲しくなる。


 その晩君は私にメールを送ってきた。


「いつ桜を見にいこうか」

「今週の日曜日は空いてる?」

「うん、空いてる」

「じゃあ、その日にしよ!」


 メールが途切れる。日曜日桜を見ることになった。

 君と見る桜はどれぐらい綺麗なんだろうか。それを考えるだけでワクワクする。

 君と友達の関係を聞いておけばよかったなと思う。

 

 4/15


 今日の君は楽しそうだった。

 別のクラスの友達と喋っているのを見ると私の心もなんだか温かくなるのを感じる。

 やっぱり君が好きだ。

 今日は金曜日。君の調子もよさそうで何よりだった。

 ここ最近の君を見ているとずっと無理をしてきたんじゃないかと思っていたので、この高校にも癒しの存在がいてくれたことに私は感謝する。

 

 4/17

 

 君と桜を見る日。

 君と公園に集合をした。

 君と見る桜は綺麗で散り舞っている桜吹雪が君を取り囲んですごく綺麗だった。

 私は君に夢中だった。

 桜よりも君を見ていた。

 君も私の視線に気づいたようで、あの日と同じように「すっごく綺麗だね」という。


 4/18

 

 君は学校に来なかった。

 風邪でも引いたのかなと私は思った。

 そう思いたかった。

 帰りに全員ホームルームをやるからという理由で残された。

 君が自殺をしたらしい。信じられなかった。

 私はその晩君と友達の関係を調べた。

 ただの友達という情報しか出てこなかった。


 4/19


 直接聞きたかったけど、怖くて何もできなかった。

 ふと、私の机の中に見覚えのないノートが入っていた。

 名前を見ると君のノートのようだ。

 開いてみると、日記のようだった。

 私はそれを読み進める。


---


 4/8


 中学時代にいじめてきたメンバーが同じクラスでもう嫌だ。

 憂鬱な気分の中で僕は隣の席の子に恋をしたみたいだ。

 僕は話を合わせながら、作り笑いをしながら、あなたの見る世界を見てみたかった。

 だから僕は君の視線の先を追った。

 満開の桜が咲き乱れていた。すごく綺麗だった。


「すっごく綺麗だね」

 

 それが僕とあなたの出会いだった。


 4/12


 いじめっ子の相手を続ける。

 正直もうしんどい。あなたが僕を見つめていることに気がつく。

 あなたは桜に目を移した。その動作ですら綺麗に思えた。

 この状況を変えてくれる存在だと思った。


「連絡先交換しない?」


 僕は勇気を振り絞ってあなたの耳元で言う。

 あなたはすごく嬉しそうな表情でOKをくれた。


「今度一緒に桜を見に行こうよ」


 と震える手であなたにメールを送る。

 桜を見ている君がすごく美しかった。綺麗だったから僕はあなたと桜を見たいと思った。


 4/13


 今日も今日とていじめっ子にいじめられる。

 憂鬱な毎日を何度過ごせばいいんだろうか。

 僕の生きている意味とはいったい何なんだろうか。

 僕はまた桜を見る。桜が散り始めている。

 早くあなたと桜を見たいな。


 その晩僕はあなたにメールをした。

 すごく勇気が欲しかった。


「いつ桜を見にいこうか」

「今週の日曜日は空いてる?」

「うん、空いてる」

「じゃあ、その日にしよ!」


 何とか予定を合わせることができた。

 これだけでこの日までは生きることができるだろう。


  4/15


 今日は比較的に楽しかった。

 いじめっ子が絡んでくることもなければ、別のクラスの友達が遊びに来てくれるなんていい一日だったんだろう。

 ここ最近の憂鬱な気持ちが少しだけ消えていった。


 4/17

 

 あなたと桜を見る日。

 あなたと公園に集合をした。

 あなたと見る桜はすごく綺麗だった。今日のために生きてきたんだろう。

 僕はこれで思い残すこともなかった。

 あなたが私を見ていたため、「すっごく綺麗だね」と言ってみる。

 あなたは黙ってうなずいた。やっぱり僕はあなたが好きだ。

 だけど、僕が告白した場合あなたは、僕みたいに苛められるだろう。

 それだけは嫌だ。あいつらにこの想いすら隠さないといけないのはつらい。

 あなたにこの気持ちを伝えるのも怖い。僕はこの気持ちを墓場まで持っていくことにした。


---


 私は君になにかできたのではないかと今では考える。

 君が今までつらかったことをもっと理解すべきだったんだなと思う。

 両想いだったのだから、私から告白してればなんて思ったりもした。

 来年も桜を見たかった。何もかもしたりないよ。

 後悔だけが残る日々。気持ちだけが残る春。

 ちゃんとお別れしたかった。笑顔だけじゃなくて、他の表情も見たかった。

 だけど最後は君の笑顔が見れてよかったのかな。この気持ちは私の中にしまってお別れしよう。

 さようなら、大好きだよ。

 

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春と桜と別れ 宮梶霧 @kirito100717

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