謎メール
臨也「深夜に渡したい物があって」
そう言われて渡されたのは最近よくテレビでCMが流れている最新機種のスマホだった。
『おー……はっ?オレにッスか?』
臨也「当たり前でしょ」
『いえいえ、受け取れ無いッスよ。ただでさえ色々良くしてもらってるのにこんな贅沢できないッス』
臨也さんにスマホを押し返すと、向こうも負けじと押し返してきた。
臨也「高校生なんだしスマホは必要でしょ?それにもう買っちゃったし。俺も既に3台もってるからいらないし」
彼が指さした先には愛用のデスクに3つの最新機種スマートフォンが置かれていた。
『金持ち……』
臨也「情報屋ですから」
受け取らない口実がなくなってしまったので、渋々受け取る。
『……ありがとうございます』
臨也「なんだか嬉しくなさそうだね?」
『嬉しいッスよ?オレも正直欲しかったですし。でも臨也さんから頂くとその……大変失礼とは存じますが盗聴器やら盗撮器やらが仕組まれていそうで怖くて』
臨也「ハハハ、俺は男子高生のスマホに細工をする最低な男だって言いたいの?」
ニコッと貼り付けた笑みで笑う臨也さんにゾッとして慌てて否定する。
『いえいえいえいえっんみませんでしたッ!そうですよね!紳士な臨也さんに限って んな変態紛いな事――「深夜も最近俺の事が分かってきたよねぇ」――は?』
今この目前の男、なんと言った?
臨也「ま、ノーコメントで」
パチン、と可愛らしくウィンクをする臨也さんに大きなため息をつく。
『……変態』
顰めっ面でそう罵っても、臨也さんは面白そうに笑うだけだった。
『まぁせっかくなので使わせてもらいます』
ただ扱いには十分注意しないと、だけど。
常に臨也さんの目と耳が近くにあるという事だし。
そのままソファーに横になりながら、適当についていたドラマを見る。
女優「――もうやめてよ!!死なせてよ!!あの人が居ない世界なんて意味がない!私をあの人のところへ逝かせてよ!!」
『……』
ぼーっとしながらその会話を聞いていると、ソファーの後ろからコーヒーを持った臨也さんが身を乗り出してきた。
臨也「深夜はこういう恋愛が好き?」
『はあ?』
突然の話題に少し戸惑う。
『うーん…そうッスね…。そりゃあ、ここまで好いたり好かれたり出来るのは羨ましいなぁとは思いますが…』
臨也「ふぅん。じゃあ深夜には大切に思う人は居ないの?」
『いや…まぁ友達はオレにとって大切な存在ッスよ?帝人くんとか、杏里ちゃんとか、正臣とか』
あとは向こうの世界の友だちとか家族もちろん大事な存在だ。
臨也「じゃあ例えば深夜の大切な人が皆死んじゃったら、深夜も死ぬ?」
『……縁起でもない事言わないで下さい。でも、そうッスね……死なないと思います多分』
臨也「どうして?生きる理由が無くなっちゃったら、また新しい大切を見つける?」
嬉々として質問してくる臨也さんはオレと言う人間観察に夢中になっている。
『きっと新しい生き甲斐を見つけますね。でも、たとえそれで生きる理由が見つけられなかったとしても……死なないですね』
臨也「ほぅ?理由は?」
『理由?そんなの消去法ッスよ。死ぬのは怖いから仕方なく生きる。それだけ』
さらっとそう言うオレに、臨也さんは少し驚いた顔をした後、くくっと喉を鳴らして笑った。
臨也「消去法かぁ。それは実に面白い考え方だ」
カコン、とデスクにコーヒーカップを置く音が聞こえる。
臨也さんは近づいてきたかと思うと、ソファーに横になっていたオレに覆い被さってきた。
『はっ!?、え、い、臨也さん!?!?』
驚いて何度も瞬きをする。
けれど、目の前にはやはり整った顔が至近距離にあった。
『ちょ、近いッス臨也さん!!』
恥ずかしくなって思わず目を瞑る。
臨也さんを押し返そうとしても、びくともしなくて、むしろ薄いVネック越しに伝わる臨也さんの熱がより近い距離であると自覚させられて顔に熱が集まる。
臨也「くく、照れてる?耳真っ赤」
『ひゃうっ』
ひんやりとした指先が私の耳を撫でる。
くすぐったくて飛び出た声が自分のものとは思えないほど甘くて、慌てて手で口を塞いだ。
臨也「こえ、かわいい」
ふわっと笑う臨也さんはいつも見るような仮面の笑みでも人を嘲笑うような笑みでもなくて、余計に心臓が高鳴った。
どこだ?
いつどこでオレは彼の変なスイッチを押してしまった?
というか、簡単にそういう恥ずかしい事をするのはやめて欲しい。
混乱して慌てふためいているオレを楽しそうに観察した後、臨也さんは真剣な表情でこういった。
「俺、深夜に一つ聞いてみたい事があるんだ」
『…なんッスか??』
声のトーンが少し低くなり、重要な話なのかと身構える。
臨也「――もし、さ。もしもの話だよ?君の大事な友だち……竜ヶ峰くんたちを、俺が壊してしまったとしても、君は俺から離れないって事だよね?俺に依存してる君には俺のそばを離れる選択肢なんてないもんね?」
『……はっ…?』
ギラリと光る彼の深紅の瞳が、酷く恐ろしく見えた。
臨也さんの言葉を思い返す。
おそらく帝人くんたちを壊すと言うのは、三つ巴を起こすと言う意味だろう。
それはなんとなくわかる。
でも、それからオレが臨也さんの元を離れると言う話になるのかさっぱりわからねぇ。
考え込んでいると、ふと臨也さんと目が合う。
先程の貫くような視線とは違い、ゆらゆらと瞳が揺らめいていた。
『――貴方は、何を恐れているんだ?』
オレを押し倒している目前の男が、何かに怯える様な オレに縋っている様な、そんな表情をしていたから。
思わずオレはそう問いかけていた。
「恐れてる…?俺が?」
臨也さんは無表情で私の言葉を反芻させる。
『……オレには、臨也さんが何を考えているのかよくわからないッス。だから、ただの意地悪でそんな事を言ったのか、本当に帝人くんたちを壊すつもりなのかもわかりません。でも、その時臨也さんの傍を離れるかどうかは、オレが決めるッス』
自惚れだと笑われてしまうけれど、臨也さんはオレを手元においておきたいと思ってくれているのかもしれないと考えた。
だからオレは、敢えて突き放すように言った。
臨也「深夜は、俺が生かしてあげてるんだよ?俺が居なきゃ、深夜は生きていけないだろう?死にたくないなら、俺のそばに居るしか、君には選択肢がないだろう?」
『選択肢なら、ありますよ。オレには、もう一つ居場所があるッス。本当に、オレが居るべき場所が』
瞼を閉じて、現世で楽しそうに過ごしていた学生生活を思い出す。
オレの本当の居場所は臨也さんの隣じゃない。
平凡なあの日常こそが、オレの居場所。
臨也「……それは、深夜が元いた世界の事?」
『そうッス。帰り方はまだわからねぇけどな。でも、きっとこのままだと帰れそうな気がするんッス。近いうちに』
確信めいているオレの発言に、臨也さんは閉口した。
『でもそれに、私が帰るかどうかは、臨也さんには関係ないじゃないですか。だってオレは、貴方にとってただの駒でしょう?』
苦笑するオレに、臨也さんは複雑そうに笑った。
臨也「――あぁ、そうだね。そうだった。君はただの駒だった。君の代わりは、どこにでも溢れているね」
『そうですよ。だから、間違えてもオレに居なくなってほしくないとか思わないでくださいね?』
臨也「はは、とんだ自惚れだ」
雰囲気を和ませるようにわざとあざとくそう言うと、臨也さんも普段のように笑った。
仕事だと言って外出した臨也さんがいなくなった部屋でそっと呟く。
『――これで良かったんだよな?』
臨也から手渡されたスマホとは別の現世から持ってこれた唯一のスマホを覗く。
◯
◯
◯
From:荳也阜縺ョ逶」隕冶?
Subject:無し
あなたはだれ?
じゃまよ
はやく
きえて
あなたのせいで
くるう
すべてが
じゃまもの
はやくきえて
いなくなれ
はやく
はやく
はやく
はやく
◯
◯
◯
何度見てもたちの悪いイタズラメールだ。
(ただ、誰も知らないはずの現世のメールアドレスに送ってこれるなんて、一体何者だ?)
差出人を睨みつけても、文字化けしてしまい誰だかわからない。
これが送られてきたのはつい昨晩の出来事。
初めてのダラーズ集会から数日が経ち波江さんとも少しずつ顔馴染みになってきた頃だった。
たまたまチャットルームを覗こうとしたとき、メールボックスに通知が来ていた。
こちらのスマホで連絡を交換しているのは静雄のみなので、静雄からなにか用事だろうかと確認すると、先程の謎メールが届いていたのだった。
(それにしても――)
【あなたのせいで くるう すべてが】
(どう考えたって、イレギュラーなオレがトリップしてきてしまった勢でデュラララの世界観が狂い始めているって解釈しか出来ねぇよな…)
深いため息をつく。
このままじゃ、物語を原作通りに進ませたいこのメールの相手に殺されるかもしれない。
(とりあえず、臨也さんには“オレがいつ消えてもいい存在”だと言うことを遠回しに伝えておいて見たけど)
これからは切り裂き魔への出来事で手一杯になってしまいそうなのに、こんな変なメールの相手もしなければならないのか。
『チッ…たかが平凡な高校2年生になにしろって言うのーーーッ!!!』
自暴自棄になってそう叫ぶ。
言葉は虚しく溶けて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます