第305話 墓参り③
「折角会えたのに、寂しくなるな」と、洸太との別れを惜しんでいる様子。
「僕には二人の母親がいる。産んでくれた実の母親と、血は繋がっていないけど我が子のように育ててくれた里親。実母は僕と一緒に心中しようとして、里親は僕を殺そうとしてきました。
そんな二人の酷い仕打ちを受けて愛情なんてあるものかと思えず、死んでも許さないと決めていましたが、僕にしてきた行為ではなく、二人とも二人なりに僕のことを思い、愛情をたっぷり注いでもらっていたことに改めて自覚したことで、僕の心にあった靄が晴れて、自分の恐怖を乗り越えることが出来ました。自分でも未だに信じられません。それに気付かせてくれたのは岩嶺さんです」
「二人の母親のことをそんな風に受け止めてくれてホッとしているよ。そうやって二人のことを前向きに捉えることで自分のことも肯定できるようになり、前に進むための原動力になる。これから先どんな困難を前に躓いても決してめげることはないだろう」
「闇に墜ちた友人を救うことが叶わず、責任を果たすことが出来なかったけど、それで自分のことを情けないとか不甲斐ないとかみっともない奴だと必要以上に責めたり卑下したりするような言動はもう二度と取りません。
いつまでも光に溢れる人生を送って欲しいと願って名付けてくれた実のお母さんに失礼ですし、何より自分を侮辱することにもなるから」
「初めて会ったときとまるで別人のように成長できたことに感動しているよ。これだけは忘れないでほしい。君がどのようにして生まれ、どこでどんな風に育ったのかなんて関係ない。君は君だ。一般人だろうと超能力者だろうと、君が君らしくいることが何よりも大事だ」と、感心した様子で語る。
「だからこそ僕は、これから光守洸太と名を改めることにしました。光山の『光』と永守の『守』。二人の母親の苗字から一文字ずつ取って付けることで二人に支えられてきたことへの感謝をいつまでも忘れないようにするためと、精神的に弱かった頃の自分と決別して新たな人生を歩んでいくということです。
誰にも縛られたり、締め付けられたり、苦しめられたりすることの無い、自分らしく生きられる光輝く人生を目指します」と固い決意を表明した。
「光守洸太。良い名前じゃないか。実に君らしいよ。そんな君に出会えたことを私は誇りに思っている」
「……短い間でしたが、お世話になりました。お元気で」
「お墓の世話と家のことは任せてくれ。達者でな」
「はい!」と背を向け、身体を念力で浮かせて名残惜しそうにゆっくり飛んでいく。
岩嶺も別れを惜しむ気持ちを抑えながら、洸太の旅立ちを満面の笑みで見送った。洸太は、両目から溢れ出る涙を袖で拭いながら空の彼方へ消えていった。
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