第112話 狙撃

<こうなっては止むを得まい。陽助、速やかに目標を保護して離脱するんだ!>


「日向はどうしますか?」


<奴の捕獲は中止だ。撤退しろ!>


「し、しかし……」


<社長命令だ! 今回の任務の目的は日向の討伐ではなく城崎の保護。それに、奴を捕獲するための手段は全て尽くして失敗しただろ。その結果がこれだ。光山もああなっては最早作戦は続行不可能だ。これ以上そこにいれば城崎まで殺されてしまうぞ!>


「……分かりました」と渋々了承して、命令に従うことにして通信を切る。倉本の指示を受けたものの、襲来した雅人を倒して捕らえることができなかったもどかしさを滲ませて、不服そうに「クソ!」と言い放つ。

 

 陽助が近くに横たわっていたケーブルを持ち上げて、ダーツボードの中心を目がけてダーツを投げるように、城崎のいる方向とは反対にある、上空斜め四十五度上に向かって全力で投げ飛ばした。ケーブルは勢いよく橋の外へ飛び出して伸びていき、投げた方向へ陽助も助走をつけて跳んでいく。


 ケーブルが真っすぐ伸び切ったところで、陽助が空中に浮いた状態で身体を捻って仰向けの状態になったかと思うと、腕を伸ばしてその先端を掴んだ。長さは申し分なかった。掴んだ状態でバク転の要領で後方へ身体を一回転させて、その勢いで地球の重力に任せて滑空していく。


 まるでターザンがロープで縦横無尽に飛び回るように、重力と遠心力で弧を描くように橋の反対側へスウィングする。体重を乗せて更にケーブルの振るスピードが更に増していった。


 なるべく城崎の近くまで跳んでいけるように、振る方向を橋に寄せるように体重移動で調整しつつ、最高速度に達した状態で陽助がケーブルを手放し、あっという間に城崎のいる上空付近へ飛んだ。


 空中で数回回転した後に体勢を整えた後に、倒れていた城崎を発見して矢庭に念力で引っ張り上げると、ガシッと抱いて救出し、保護を最優先してそのまま戦線を離脱した。


<やっぱり未熟だな。折角与えたチャンスを無駄にしやがって。こうなったら致し方ない。やれ>

 

 業を煮やした倉本が、橋の近くに位置するビルの屋上にてライフルを構えるスナイパーに指示を出す。


「御意」狙撃用ライフルSR-25の弾倉に銃弾を入れて装填し、雅人に狙い澄まして引き金を引く。発射された銃弾は空を切り裂いて雅人の頭を目がけて真っすぐ飛んだ。雅人は頭に衝撃を受けて瞬間的にふらつく。


「どうだ、これで――」

 

 しかし、痛みは全く無かった。高速で放たれた銃弾は、雅人が張っていた念力のバリアーによって、一瞬で硬貨のように薄く潰れてしまった。


 もう一人敵がいて、遠い場所から攻撃してきている。どこから撃ってきたのか弾の軌道と速度から即座に特定できた。近くに横たわっていたタンクローリーに目をやり、得意の念力で空中に浮かばせて、橋から数百メートル離れたビルの屋上目がけて投げ飛ばした。


「まずい、避難しろ!」倉本がモニターに向かって叫んだ。

 

 恐るべき速さでタンクローリーがぶつかって、車の前半分が潰れてめり込んだと同時に爆発し、凄まじい爆発の衝撃波で無数の窓ガラスが粉々に割れて散っていった。


 その後、雅人はその場で力尽きてしまい真下に広がる海へ落下した。意識を失って海に浮かんでいた洸太も何とか無事に救出された。当初の作戦通り、保護対象である城崎を確保することに成功したが、東京セントラルベイブリッジが半壊、オフィスビルまで倒壊して死傷者も多数出る程の甚大な被害を齎す等、散々な結果に終わってしまった。


 城崎真を保護してネオテックに帰還するという、当初の目的を達成出来た洸太たちは、医務室へ運ばれて怪我の応急措置が行われることになった。城崎は幸いにも体の数か所に擦り傷と打撲の軽傷だった。陽助は雅人との戦闘で重傷を負っていたかのように見えたが、研究開発部が作ったギアスーツのお蔭で身体へのダメージは少なくて済んだ。


 そんな二人と比較して洸太の状態は深刻で、雅人の水の攻撃をもろに受けて、洗濯機の中で洗われる服のように揉みに揉まれて意識を失った。早急に担架で集中治療室へ運びこまれて治療を受け、懸命な治療と適合者特有の驚異的な自然治癒力によって一命を取り留めた。

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