第1話

 まだ昼にはならない11時頃

 暖かい日差しが差し込む保健室で僕は一人、怪我の手当てをしていた。


「あ〜捲れちゃってる…… 貼るの面倒くさいなぁ。」


 僕は呟きながら転んで擦りむいてしまった人工皮膚を見つめる。捲れた皮膚の下には銀色の光沢が見える。時計をチラッと見れば授業開始時刻の5分前を示していた。


「早く終わらせよ……」


 小さく零した声は誰にも聞こえず、面倒くさい作業を終えられると思っていたら、突然ガラガラッと扉の開く音と共に一人の男子生徒が入ってきた。見た目は茶髪で茶眼。制服はボタンを二つぐらい開け着崩し、校則のネクタイは無く、チャラい感じだけど何処か気怠げな雰囲気を纏っている。彼を見ているとパチリと視線が交わる。


「ん?お前怪我してい……」


 僕を見て何か言おうとしたが、何を見たのか驚いたように目を見開き、言葉はプツリと途切れた。彼の視線を辿れば僕の怪我している手に注がれていた。


「───ッ!」


 視線に気づいた僕は隠すように手を素早く動かした。


「お前、何者だ……」


 低く威圧感のある声が保健室に響く。さっきまでの気怠げな雰囲気は一転、鋭い視線と声が僕を突き刺した。


「僕は……」


 何と答えるのが正しいのか脳をフル回転させる。


 …………


「僕は、人間じゃない。ただの機械仕掛けの人形だよ。」


 人格模倣システムは一時的にOFFにして、機械らしい感情の無い表情と声で言う。何故この結果になったのかは、多分彼には嘘は通用しないと考えたからだ。どうせバレるなら嘘はつかない方が賢明だ。


「あははっ!」


「──っ!?」


 急に腹を抱えて笑い出す彼に僕は驚き呆然とする。意味が分からない。何処に面白い要素があったのだろうか?


「あぁ〜本当に人間ぽくないね。そう言う所。」


 目尻にある一粒の涙を拭い、濡れた瞳が僕を見つめる。


「俺の名前は黒瀬くろせ れい。3年だ。」


「僕は神風かみかぜ しゅんです。見ての通り2年です。」


 学年カラーのネクタイを摘み見せる。色は1年が緑、2年が青、3年が赤。この学校では、ネクタイの色でどの学年なのか分かるようになっている。だけど零さんはネクタイをしていなかった為、どの学年なのか分からなかったが、まさか上の学年だと思っていなかったため驚いた。よく見れば大人びていて、なんと言うか色気?があって高校生には見えない。

 自分で勝手に納得していると、スッと手を差し伸べられた。


「んぇ?」


 なんとも間抜けな声が出る。零さんは少し「はぁ」と息を吐くと僕の手を掴み「よろしくな。」と握手をしてきた。


「よろしくお願いします…」


 色んなことがあり過ぎて、脳の処理が追いつかない。これから僕はどうなるのだろうかと考えながら、僕は零さんを見つめた。

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