カンリョウ
「ところでだ。鈴はいいのか?双樹は何か夏啼きはもう起きないって言ったけど、外に出れない位凄い雨だぜ?これ鶴が暴れてるんじゃないの?」
一回落ち着いてしまうとお互いに恥ずかしくて堪らず、長い事背中合わせ。相も変わらず床に不貞寝したまま奏は聞いた。
外では相変わらず雨の音が続く。相当の雨量で、家に帰ろうという気にはならない。
「ん。鈴はこのお堂に持って来ればいいの。それで『沢隠し』は完了。周り見てみなさい、いっぱい鈴があるでしょ?」
「ん~……確かに」
周りには確かに古い鈴っぽい物がゴロゴロ転がっていた。つまりはここが沢隠しの到達点で、鈴を奉納する場所なのだろう。ならば沢隠しは完了したといって大丈夫な筈だ。
「じゃ、『夏啼き』ってのは、もうないのかな?台風は来てる様だけど」
「ないと思うわよ。台風だって去年も来たんでしょ?ま、確かに前回の『沢隠し』があったのが十年前だから周期は今年なんだろうけど、きっと大丈夫」
双樹の声は何だか甘い。クラクラする様な匂いだ。
「そうか」
「この雨だって、きっと雨娘が早く鈴をお堂に入れろ、って催促の為に降らせているのよ」
双樹は言って、ふぁっと欠伸をした。
「この雨じゃ帰れ無さそうよ。私このまま寝るわ。奏くんはどうするの?」
双樹は疑問形で投げ掛ける。が、奏が帰ると言い出すとは思っていない口ぶりである。
「おやすみ、って言われたし、おやすみするよ」
無論言い出さないが。
「そ、じゃ。お休み」
「うん。おやすみ」
お堂の外では相変わらずの大雨が降り続き、出来の悪いノイズが鼓膜を犯していく。疲労ともやもやした達成感を感じながら目を閉じる。雨の匂いと埃臭さと、双樹の息使いを感じた。やがてスゥスゥと、二人分の寝息が静かでばい空間に重なっていった。十年の停止した時間は、二人の間できっと静かに動き出した事だろう。
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