波乱
「え~…と、何?」
必死に受けている内に授業は過ぎて、来るは待ちに待った昼飯時。
九時から始まった授業はかなり難しかったが反面面白かった。参考書と睨めっこの勉強が多かった奏に取って、教える事を考えた講師の生きた声は新鮮だった。
とは言っても慣れない長い授業は疲れたし、午後にもまた授業が待っている。それを考えると昼休みは気力を入れ直す大切な時間である。
その休憩を支える七階にあるフードスペースは、階の半分を使っただだっ広いスペースに、沢山のテーブルと椅子が並べられているだけの場所。一応自販機コーナーも有るが、適当なラインナップで六台並んでいる位。基本的には持ち込みの食事を食べるスペースであり、また授業のない隙間時間に自習するスペースなのだろう。
「えと…双樹さん?」
で、双樹より早く終わった奏は、先に七階のフードスペースにて彼女を待っていた。幸い奏は教室が六階だった事もあり、席は難なく確保出来、後は双樹が到着しさえすれば、有難く弁当に有り付ける所だった訳だ。
だがしかし、である。
「…………」
双樹の到着と共に問題が起きた。いや、何も起きないのが問題なのか?奏を見つけて寄って来た双樹は、何故だか凄く機嫌が悪かったのだ。
(な~ぜ~だ~?)
奏は威圧感に耐え切れず、双樹から目を離して弁当に視線を移す。
使い慣れた弁当箱が、良く見知った布で包まれている。中身は母親に作ってもらったご飯だが、きっと美味しい。
「ねえ」
「おお!おお…」
弁当箱に現実逃避しようとしたのだが、めざとい双樹に止められた。黙っている方が怖いかと思ったが、やっぱり怒り顔の方がちょっと怖い。
と、双樹は奏の隣をちらり見て、やっと口を開いた。
「一つ聞きたい事があるんだけど?」
「お?何でも聞きな?フードスペースの使い方か?それとも授業で分かりにくい所があったか?まぁ俺が教えれるかは分からないけど一緒に考える事は出来るな。一緒に考えるってのは大事だぜ?質問して教えられる事よりも、質問する事自体が学力の促進に…」
「ねえ!」
「…ごめんなさい!」
破棄回りして解決しようとするそうだったが、更に怒られてしまう。
「この子――誰?」
「へ?」
何を聞くのかと思えば、双樹は見知らぬ顔の紹介が欲しかっただけらしい。
奏は拍子抜けして、双樹に沙希を、沙希に双樹を紹介した。
「彼女は吉住沙希。彼女は守上双樹だよ」
「はぁい!私は沙希よ。よろしく。奏くんと席が隣なの」
沙希は笑顔で双樹に手を振った。
「奏くん!」
「はい!ごめんなさい、何で!?」
ほっとしたのも束の間、ドッカーンと雷が落ちた。双樹は、こめかみをピクピクさせて怒っていた。まるで鏡を前にして怒る猫の様だ。目を凝らせば猫耳と尻尾が見えそう。
「…………いわよ」
双樹は何かを呟くと、クルリと踵を返す。
「…双樹?どうしたんだ?お腹でも痛いのか?」
「もう良いって言ってるのよ」
「双樹?」
呟く様に、投げ付ける様に。静かではあったが、有無を言わせぬ拒絶だった。
「もう良いって双樹、お前………ちょ!どこ行くんだよ!双樹!」
「何処でもいいでしょ!」
戸惑っている内に双樹はフードコートの外へと走り出す。全力疾走に近い双樹は、あっという間に見えなくなってしまった。
「え~…」
追うタイミングを逃した奏は、野次馬の渦中に取り残されてしまった。周りが何だ何だと注目してるが、奏が説明して欲しい位である。
「あっちゃぁ、嫌われちゃったかな?私」
「いや、あいつが社会不適合なの忘れてた」
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