襲撃のかほり
「……はっ? ダメに決まっているでしょうが」
「っ!?」
「……だから何を言っているんです? 寝言は寝てから言うものですよ真名……え? 西条さんも?」
(璃音……さん?)
「仮に西条さんも同じだとしてもそんな戯言を聞く気はありません。えぇですから諦めてください……はぁ、みなまで言わないといけませんか?」
「………………」
「ナギ君とイチャイチャしたいから邪魔すんなって言ってんですよ!」
璃音が……璃音が荒ぶっておられる。
ふしゃぁっと猫が威嚇するようにスマホを睨みつける璃音だが、何があったかは声が聞こえていたので大体は把握している。
単純に今日、璃音の元に遊びに行きたいんだけど……という提案らしいのだ。
この場合は完全に俺の家になるわけだけど、阿澄さんも西条さんもどんな風に過ごしているのが見たいとか。
「俺は別に構わないぞ?」
「……良いんですか?」
「あぁ。俺と一緒に過ごしたいって、そう言ってくれたのは嬉しかったけど阿澄さんから電話が来て遊びたいって言われた時、嬉しそうにしてたじゃんか。俺と璃音の時間は無限にある……だから友達との時間を優先したって良いと思うけど」
「……そうですか?」
「あぁ。阿澄さんと西条さんと過ごしはしたけど、結局ちょっとしか居られなかっただろ? だから遊んどけ……そもそも!」
「?」
「璃音はただでさえ友達と遊んだって時間が普通より少ないんだから取り返しちまえよ」
「あ……」
そこまで言うと、璃音はしばらく考えて頷いた。
そうして阿澄さんと西条さんがこっちに来ることが決まり……というか特に何も考えずに提案したわけだが、璃音以外の女子が家に来るのって初めてだな……しかも片方はグラドルっていう。
「……ナギ君」
「うん?」
「それでも……ナギ君との時間が大切なのはもちろんですし、それに勝るものはないんですからね?」
「……おう」
ま、俺もそうだよ。
さてと……こうなってくると俺はどうしようか? どんな風に過ごしたいか見たいというより、とにかく璃音と過ごしたいんだろうしな。
西条さんはともかく、阿澄さんは本当に璃音が大好きらしい。
「まさかナギ君、二人が来たらどこかへ行くつもりですか?」
「部屋に引っ込もうかなって」
「ダメですよ。今日は四人で過ごすんです」
「……俺も居るの?」
「当たり前ではないですか」
……ということで、どうも俺は逃げられないらしい。
そうして阿澄さんと西条さんが来ることが確定したが、璃音は本当に呼んでも大丈夫なのかと聞いてくる。
「ここは私の家ではありませんし、確かにナギ君の許可を取ったとはいえ気になるんです」
「本当に大丈夫……むしろ、璃音以外の女の子が来た経験がないことに緊張してる」
そう言って俺は部屋に戻り、二人が来ても大丈夫なように身嗜みを整えた。
髪の毛が寝癖で少し変になっているが、これくらいは良いだろう。
そんな風に思っていたものの、璃音がため息を吐いて俺を呼び頭に向かって手を伸ばす。
「少しは直す努力をしたらどうですか?」
「いやほら、ありのままって大事じゃん?」
「確かにありのままのナギ君は素敵ですし、寝癖があるのも悪くはないと思います……が、だらしのない姿を見るのは私だけで十分です」
「えっと……」
「もっと言わないと分かりませんか? どんな小さなことでも、あなたの全てを知るのは私だけで良いんです。他の誰にもそれは譲りません」
そのことで、パパッと軽く寝癖を直してもらった。
それから璃音が二人を近くまで迎えに行くからと言って家を出ようとしたが、俺が彼女を一人で外に出すわけがない……ちょっと過保護かなと思いつつも、これもまた今更だ。
「待ってて良いのに」
「そうしたいんだよ」
「……ふふっ、分かりました」
その後、璃音と一緒に二人を迎えに行き……無事に合流して家へと来てもらった。
「へぇ! ここが六道君の家!」
「……なるほど、璃音が言う通り温かさがあるわね」
周りを見渡す二人に、俺はついに来てしまったかとやはり緊張する。
そんな俺の緊張を和らげるように、璃音がクスッと微笑みながら俺に身を寄せて離れない。
「あ、そうそう。璃音ったら聞いてよ」
「何をです?」
何やらニヤニヤとしながら阿澄さんがこんなことを言った。
「梓ったら六道と付き合って結婚する夢を見たんだってさ」
「……へぇ?」
グッと腕を抱く力が強くなり、腕に感じる柔らかな感触よりも痛みの方が若干強い……あのぉ璃音さん、ちょっと落ち着いていただいて。
いきなりそんなことを口にした阿澄さんは楽しそうだし、西条さんに至ってはどこか璃音に挑戦的な目を向けてるしで……俺は即座にこの場から逃げたい気持ちに駆られる。
「まあまあ、夢だからそんなに怒らないでよぉ。もしかして璃音ちゃんったら焦りを――」
「焦り? 何を言ってんですかこの乳でか女は」
二人の間に戦争勃発……そうなりかけたが、西条さんはごめんごめんとすぐに璃音へ謝った。
「ごめんねぇ。やっぱり普段の璃音ちゃんを知ってる分、こうして揶揄うのは楽しいなぁ♪」
「私は全然楽しくないですけどね」
「むふふ~、こうして六道君の家に来た以上は璃音ちゃんに逃げ場はないし! 名字から名前呼びになるまで攻めまくるから!」
「面倒ですね……梓さん、ハイ終わりです」
「拍子抜けとかじゃなくてなんか違う!!」
……いつにないというか、やっぱり騒がしくなってきたなぁ。
どう考えても仲が悪いなんてことはなく、楽しそうにじゃれ合う二人を俺と阿澄さんは子供でも見るような目で見つめるのだった。
「……悪くないなこういうの」
「悪くないわねこういうの」
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