復讐の魔導書
ゆーき@書籍発売中
復讐の魔導書
「ここは……どこなんだ……」
俺は暗闇の中で不安げにそう呟いた。
「さっきまで家にいたのに……どういうことなんだ……」
中村に煽り画像を送ってニヤニヤしていた所までは覚えている。だが、そこから先の記憶がない。
「と、取りあえず明かりをつけないと……」
俺は暗闇の中をさまよって、電気のスイッチを探す。
幸いなことに、壁は直ぐに見つかった。後は壁伝いに歩いてスイッチを探せばいい。
「……ん?」
べちょりと手に液体がついた。ドロドロしていて、気持ち悪い。
何がついたのか暗くてよく見えない為、俺は液体がついた手を自分の鼻に近づけて、匂いを嗅ぐ。
「……これは――」
俺は言葉を失った。
この独特な匂い。
それは――
「血……だよな?」
ゾクッと背筋が震えた。
俺は思わず服の裾で手を拭う。
「い、一体何が……」
恐れるようにそう呟いた瞬間、ぱっと明かりがついた。
「こ、これは――」
俺は目を見開いた。
目の前には終わりが見えない廊下。背後にも終わりが見えない廊下。
壁にはランプが釣り下がっている。
そして、肝心の血なのだが……
「何もない……」
壁には血なんてついていなかった。
そして、手と服にも血はついていない。
「な、何が、どうなって……」
訳が分からない。そもそも俺は何故こんなところにいるんだ?
「ゆ、夢、夢なのか!?」
俺は動揺しながらそう叫んだ。
ズルズル……
すると、何かが這うような音が背後から聞こえてきた。
俺は、恐る恐る振り返る。
「な……なあ!?」
そこには床を這って移動する数体のゾンビの姿があった。
しかも、俺はあの顔に見覚えがある。
「お父さん、お母さん、お爺ちゃん、おばあちゃん、兄ちゃん……」
みんな体が腐っており、死臭を漂わせている。
「お、まえ……も、ごっぢに……ごい……」
「おまえが、中村ぐんにぞんなひどいごどをいっだがら、ごう、なっだんだぁ!」
「う、うわああああああ!」
俺はとうとう頭を抱えて発狂してしまった。
だが、家族――ゾンビは待ってくれない。
ゾンビは容赦なく俺の体に噛みついた。
「う……が……ご、ごめん……なか……む……」
この言葉を最後に、俺の意識は途絶えてしまった。
また、意識が覚醒する――
「あーあ。俺にあんなひどい画像を送らなければ、そんなことにはならなかったのになぁ」
透明化を解除した男――中村祐人は憐れむような声でそう言った。
「この魔導書は便利だね。転移に腐死化に透明化。いろんな魔術が使えるんだから」
中村祐人は子供のように笑いながら黒い書物をパラパラとめくった。
「そんじゃ、永久にここ、無限牢獄に閉じ込められているといい」
中村祐人は
(そん……な……)
その様子を、俺は苦しみながら見ることしか出来なかった。
身体を思うように動かせない。思うようにしゃべれない。
その状況で永久に生き続けなくてはならないことに、俺は本当の意味で絶望した。
◇ ◇ ◇
「……はっ!」
ガバっと跳び起きた俺は、高鳴る心臓を抑えながら辺りを見回す。
ラノベがきれいに収納された本棚。
推しキャラのフィギュアが並べられた棚。
そして勉強机。
ここは……俺の部屋だ。
「なんだ。夢かよ……」
夢だったことに、俺は頭を掻きながら、ほっと安堵の息を吐くのであった。
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