第六話 全世界同時脳破壊配信
──渋谷ダンジョン。
日本四大ダンジョンと評される難所の上層にやってきた俺は、いつもと違う準備をする。
「適当でいいか」
回りくどい説明書をしまいドローンを起動する。
するとプロペラもないのに重力を感じさせない動作で浮かび上がってぴたりと俺の頭上についてみせた。
「微量の風で浮いているか、あるいは重力操作の術式だな」
稼働時間は一日だったか。
あの機体の大きさなら一週間は保っていいはずなので、魔素がかなり漏れ出してしまっているみたいだ。
と──ここまで思考に没頭して頭を掻く。
「術式なんてどうでもいいだろ。で、こっちは──」
タマキからもらった腕時計型機器Dウォッチの画面に俺の姿が映った。角度からして、俺が打ち上げたドローンが撮っているもので間違いなさそうだ。
面倒な設定は彼女が終えてくれているのでドローンを飛ばした瞬間から配信とやらがスタートするらしい。
確かに画面には文章が流れていて他人が俺を覗き見ているような気配がある。
「おもしろいな」
:やっほー。見にきたタマタマ。初コメゲットー
アイツだな。
それ以外には来ていない。
誰にも周知していないし当然だろう。
とりあえずの準備は完了したみたいだし、始めようか。
タマキ曰く普通に攻略すればいいとのことなので、いつも通り行こう。
「こんな事で稼げるのは信じがたいがな」
ダンジョン攻略を見せるだけで稼げるだと? 長いことダンジョン攻略してきたが今の今まで一円も懐に入ってこなかったのに馬鹿げた話だ。
ま、すぐに結果は分かるか。
ここは初めて来るダンジョン。
知名度の高いダンジョンである事はもちろん知っていたが、ウチは段階を踏んでいく方針だったので初めての挑戦だ。
しかし今のところ、ここ上層では何も恐れる事はなさそうだ。
ゴブリンにオークにコボルト……雑魚ばかり。
地形もよく見る遺跡タイプの人口迷路構造なので、足場はしっかりしている。
「──っふ」
なんて事はない。
攻略は簡単だ。
走り抜けるのみ。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに。
レンガ作りの壁など俺の重い拳一発で粉砕できる。
走るだけで道が開く。
魔物も障壁も皆平等に粉砕するのだ。
そうしているうちに勝手に
次の階層だ。
「──よし」
三十分ほど経ち、10階層ほど降りた辺りでDウォッチを確認する。
さっきからやたら振動が凄いので気になっていたのだ。
激しく動いたせいで故障でもしたのか? 軟弱者め──と思ったが違うらしい。
というのも、画面が白く染まっていて見えないのだ。
いや、違うな?
それは魚の大群に等しい。
目を凝らせばそれぞれが文章の塊であることが分かった。
:どらああああぁあああああああああ
:安 定 の パ ワ ー 系 攻 略
:拡散しろ拡散
:21万、22万、23万...くそっ、同接のカウンターが壊れてやがる
:クラッシュしかしないのすき
:あああああああああ
:とりあえずなんか打っとけ
:初配信こことかヤバすぎて草
:【悲報】渋谷ダンジョンさん、公開処刑される
:15層より下は熱対策必須。その装備だと厳しいから引き返した方がいい
:つっっっっよ
:こりゃ米国焦ってんじゃね。ここ落ちたらツァーリまで繋がるし
:指示厨きんも クラにも湧くのかよ
:壁破壊音気持ち良すぎだろ! MAD制作捗りゅう!!
:簡単に壁ぶち抜いてるけどアレ小型ミサイルでも破壊できないからな!?
これを見てめちゃくちゃ動揺した。
俺は目を白黒させながらその場を右往左往する。
:お? コメ欄見てら
:Yeah! Kura!!
:配信者でびゅーおめ!
:よろしければ今後の展望をお聞きしても?
:おい! 前見ろ前!
:海外ニキいるじゃん
足元に影が落ちる。
頭にゴツゴツとしたものが落ちてきた──が、ノーダメージ。
──
重量操作形列の防御魔法の一種で、その効果は重さで劣る者の攻撃を無効化するというもの。
ダンジョン内の魔物が危害を与えてくる時、触れた瞬間相手の重さを消す術式を左肩に書き込んでいるので実質的に単純な物理攻撃は無害だ。
敵を目視することなく適当に拳を振り抜けば羽根のように軽い感触と共にレンガが爆散したので敵がゴーレムであったことを分かり、すかさずDウォッチに目を落とす。
:ゴーレムの攻撃で無傷?? もしかしてギフテッド持ちか?
:TUEEEEEEE!!!!!
:嘘だろ、、Aランクパーティーが徒党を組んで倒しに行くバケモンだぞ???
:前人未到の三十層以降の攻略が見れそうだな!
何故だかニマニマが止まらない。
当たり前のことをしただけだが?
:痩せ我慢だろ 俺はこいつの強さに疑問を感じてる
ムッとして歩き出す。
こんなところで立ち止まっていられるか。
今日は踏破を目指していない。別の目的があるのだ。
「丁度いい時間だな」
時折他の探索者とすれ違いつつも迷路を歩く。
空気中を漂う魔素を鋭敏に感じ取りながら、より魔素が混沌としている方角へと歩を進めていると金属がぶつかり合う音が耳に入ってきた。
それの音は段々と大きくなり大地を踏み締める音や、大地を強かに叩くような音が混ざり始める。
「ボスエリアか。もう始めているのか」
開けた場所に出た。
天井は高く、円形フィールドの壁には青白く光る魔石が等間隔で埋まっている。
全力で走り回れる程度には広い空間の中央にて黒く煌る黒鉄の
この前はあんな装備だったっけ?
まあ、彼女はボロボロだったし正直あまり服装には着目していなかったから記憶は曖昧で正しいとはいえない。
それより何だ? 何かぎこちない動きだな。
タマキが弱いとかそういう話じゃなく、何やら動きを確かめながら戦っているように見える。
それでも渡り合っている──というか、徐々にタマキが押し始めている。
切れ長の目をカッと開きギラつかせ、身体を当てに行くような野生味溢れるバトルスタイルで己より遥かに巨躯であるはずのゴーレムを壁際に押し込んでいく。
衝動的かつ情動的に戦う彼女を見ていると胸が高鳴ってくる。
戦ってもいないのにこちらまで汗が滲んでくる。
タマキがゴーレムを壁に打ち付けるようにしてラッシュを決めている光景を見ていると自分も思わず拳を握り締めてしまう。
やはり彼女には魅せられる。
胸の奥が焦がれるようだ。
おそらくこの感情は……
瓦礫の頂上に腰掛け激しく息をする彼女を見てそう思った。
「おお?
ととと──と駆け降りて俺の前まで来たタマキはあくまでも
「っああ、久しぶりだな。今度は無事に勝ちおおせたみたいだけど……またボロボロだな」
「えへへ〜、まあね。でも今日はコスプレ回だしノーカンってことで。てかボロボロなのが
「?」
腰を少し曲げ、やや前屈みになりながらタマキが俺の胸をトントンと小突いてくる。
「で、どうだね最強。今日のあたしは」
熱くなった顔を手で覆いつつ、俺は素直な感想を漏らす。
そう、彼女のバトルスタイルは──
「……好き、だな」
「────へ?」
なんて事のない只の感想を聞いただけのタマキが──ボっと炎のように顔を赤くした。
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