21日後に死ぬ勇者

水城みつは

Lv.-01 魔王の呪い

 レベル20、この世界における人類最高レベルと言っていいだろう。

 

 ただし、『魔王』を除いてだ。


 腰までかかる長い黒髪、不吉の象徴とも言われる黒い眼。

 百年は生きていると言われる魔王城の主。


「ほう、レベル20か。勇者召喚されて半年も経ってはおらぬのにそのレベルとは女神も奮発したものだな」

 眼の前の美女は鑑定でも使ったのか俺のレベルを言い当てる。

 女神の恩恵、そう呼ばれる力を召喚者は手に入れる。これは比喩ではなく、実際に女神に会い、その恩恵を受けるのだ。

 つまり、この世界における勇者召喚は神の名の元に行われる正当な契約である。


「だまれ魔王。俺はお前を倒して元の世界に戻るんだ」

 俺の勇者召喚における達成条件、それは魔王を倒すことだった。

 勇者召喚は世界の危機の際に行われ、前回は百年程前の邪竜討伐だったと聞く。


「私のレベルは100だ。これが何を意味するかわかるか?」

 余裕綽々で椅子から立ち上がり、こちらにゆっくりと向かってきた。


「いくらレベル差があろうと当たりさえすればダメージが入る。つまり、死ぬまで殴れば死ぬのがこの世界のことわりだ」

「ふむ、女神もえらく脳筋な勇者を寄越したものだな。だが、その世界の理は足りていない」


「どういうことだ?」


「この世界で許される最大レベルは99。そして、レベルは100は世界の理から外れるのだ」


「つまり、どういうことだ?」


「レベル100の私にはダメージが入らない。王家の者なら知っていたはずだが?」

 魔王が俺の後ろの王女を見て言った。


「知っています。そのための勇者様の聖剣なのです」

「王女さんよ、俺は聞いてないのだが?」

「言ってませんから」

 王女様はにっこりと微笑んだ。


 女神様から賜った聖剣はレベルを無視したダメージを与えるということだ。どおりでレベル1のときからサクサク切れていたはずだ。

 そして、世界の理の外、それこそダンジョンの壁等も切ることができるという。

 つまり、魔王特効の付いた剣だった。


「ならばその聖剣で私を殺すが良い。ほれ、無事この心臓を貫けたら褒美を与えよう」

 両手を広げハグを求めるかのように近寄ってくる。


「なめるな!」

 迷いのない突きが魔王の心臓を捉える。

 ……聖剣は何の抵抗もなく魔王を貫いた。


「見事だ勇者よ。褒美にお前を殺してやろう……」

 妖艶な声が耳元に響く。

「な、殺すだと!」

 咄嗟に聖剣を手放し後ろに飛び退く。


 だが、俺の体に黒くまとわりついた瘴気が力を奪う。

「くっ、何をした」


「レベルを1つ奪った。これより1日毎にお前のレベルは1下がる」

「呪いか!」

「大丈夫です。呪いなら解く方法があります」

 王女さんが冷静に言った。


「無駄だよ。これは死の呪いだ。解くには私以上のレベルになる必要がある」

「なら、すぐにレベルを上げてやる」


「無駄無駄無駄、この効果でお前のレベルは上がらなくなっている。そして、1日毎にレベルが1下がるのだ」

 魔王は胸に刺さった聖剣を無理やり抜いた。


「つまり、勇者は21日後に死ぬ」

 満足気に笑った魔王は黒い瘴気となって消えていった。

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