幼馴染みは幼くない

ろくろわ

第1話 昌士と依子は幼馴染み

 まだ辺りも薄暗い早朝五時、依子の一日は早い。

 台所に立ち朝食の準備をする。米を炊き味噌汁を作り、主菜と副菜を作る。一汁三菜の理想的な朝御飯が次第に出来上がっていく。そして机の上に二組の茶碗を用意していく。


 六時過ぎ、依子には日課がある。

 依子は鍋の火を止めるとお玉を片手に自分の寝室に向かい窓を開け、直ぐ隣の家の窓をお玉で叩き出した。


昌士まさし、あんたいつまで寝てるんだ?早く起きてご飯食べに来い」

「朝から煩いぞ依子よりこ。まだ六時じゃないか。後三十分寝かせてくれ」

「さっさと顔を洗ってこい。朝御飯が冷めるだろう」


 渋々起きた昌士はそれからきっかり二十分後、依子の前に座り朝御飯を二人で食べる。


「依子、アレを」

「はい、どうぞ。それから醤油はアレではありません」


 昌士が話し終える前に、依子は目の前の醤油を差し出していた。


「仕方ないだろ?パッと名前が出てこないんだから」


 昌士は文句を言いながら醤油を受けとると、依子に塩を差し出した。


「ほら、依子。依子は卵焼きに塩をかけるだろ」


 それをまた依子はなにも言わずに受けとる。

 実に息の合った二人なのだが、この辺り二人は気がついていない。



 今日は二人の米寿の誕生日。

 二人は他人のままの幼馴染みなのだ。



 続く


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