46 復讐

 ミングルはそのまま10分ほど歩き、意外と時間がかかるなとユキナガが思っていた矢先、彼が立ち止まったのは集合墓地の前だった。


 エデュケイオンでは人間族の遺体は土葬されるのが一般的であり、遺体を忌むべきものとみなす伝統は存在しなかったので街はずれの広い土地には公営の集合墓地が設置されていることが多かった。


 ミングルはユキナガに渡したいものがあると言うが校舎まで魔動車などで来ている様子はなく、そのまま無言で墓地の中に入っていった。


 彼には何か隠していることがあると思いつつ、ユキナガは卒業生を信じてミングルの後を歩いていった。



 そして墓地の中央で立ち止まったミングルはユキナガの方に振り向くと、



「先生、死んでください」


 と呟き、相手に向けて右手をかざした。


 魔術展開の気配を感じ取り、ユキナガは左方向に飛びのくと彼の右手から放たれた雷撃を回避した。


 ミングルは驚いた表情を見せつつも何度も攻撃魔術を発動させ、ほとばしる雷撃を連発したがユキナガはその全てを身体能力のみで回避する。



「何で当たらねえんだよ! 死ね! 死ねよ!!」

「ミングル君、落ち着きなさい。魔術師は……人々の利益のためにしか魔術を行使してはならない!!」


 そう叫びつつユキナガは魔力結界を展開し、ミングルが放った巨大な雷撃を弾き飛ばした。



「魔力結界!? 何であんたが魔術を使えるんだ!!」

「ノールズ先生以外には黙っていたが、私はこういう能力を与えられている。……ミングル君、一体何があったんだ。私を殺そうなどと、どうして考えたのか教えてくれないか」

「全部……全部あんたたちが悪いんだ! そうだ、俺は魔術師になんかなっちゃいない! ただの無職の男なんだよ!!」


 激昂しつつ叫ぶと、ミングルはエンペリアル魔術学院に入学してからの経緯を声を震わせながら語り始めた。



 ミングルは2期生の中では最も成績が悪く、本人も魔術学院受験に対してどうしても真剣になりきれていない所があったが受験本番では複数の魔術学院に合格して最終的には地元に近いエンペリアル魔術学院に入学した。


 エンペリアル魔術学院は中央都市オイコットにある私立魔術学院では最も学費が高くて入試難度が低く入学後に留年する学生も多かったが、特筆すべきは「エンペリアルの輪廻りんね」と呼ばれる独特の制度があることだった。



 異世界エデュケイオンの魔術学院や呪術学院には一般に放校という制度があり、一つの学年で2回留年した学生は卒業不可能とみなされて退学となる場合が多い。


 学校によっては一つの学年で2回までの留年が許されたり放校になる前に自主退学させて復学扱いで再入学させたりといった対応が取られていたが、エンペリアル魔術学院では放校になった学生は2年生から再入学できることになっていた。


 4年生や5年生で放校になった学生でも2年生からやり直すことになり、その後にまた放校になって3度目の2年生となる学生も続出していたことからこの制度はいつしか「エンペリアルの輪廻」という俗称で呼ばれるようになっていた。


 ミングルは4年生で2回留年したことから「エンペリアルの輪廻」の対象者となったが今年また2回留年してしまったことで自暴自棄になり、実家を飛び出してここまで来たのだった。

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